貧血と出血と対策と、もろもろ
前回、私の貧血のことや月経(生理)に関する話をしました。今回はその続きです。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
貧血が改善されることはなく、出血量もひどい状態が続いていた時期、私は頻繁に入院していた。
そんな中、とある入院中に「今だ今こそ生理をなんとかしよう!」という話になった。
私は定期的に婦人科受診をしていたけれど、この頃婦人科で診てくれていた医師(穏やか先生)が女性であったことも、物事が動いた要因の一つであったかもしれない。
またその頃は徐脈だ頻脈だと心臓の状態があまり良くなくて、貧血による心臓への負荷を減らすことも大きな課題となっていた。
それではどんな手立てが考えられるか。
選択肢は次のようなものだった。
①低用量ピル
ピルは無理ですけどね、という前提で確認のために話をされた。
ピルは血栓になる可能性があるので心疾患の人は飲めない(医師の指導の元で飲んでいる人はいるようだ)。
だからこれまでも飲んでいなかったし飲む気も全くなかったが、この頃には年齢的にも良くないと言われた。
「もともと40歳代になると血栓リスクが上がるので、ごく健康的な人にもおすすめしません」とのことだった。
「血栓リスクを下げるために抗凝固剤を飲んでるのに、ピルを飲むことで血栓リスクを上げてしまったら、何をしてることかわからない」とも言われた。
もう完全に選択肢から消えたよね。
②ミレーナ(子宮内黄体ホルモン放出システム:IUS)
ミレーナは子宮内に装着させる小さな器具だ。
外科的処置は必要なく、医師によって体の中に入れてもらう。
子宮内に直接装着、ミレーナから黄体ホルモンを持続的に放出させ、それによって月経痛や月経量を減らす効果がある。
良く効く人だとほとんど出血がなくなる場合もあるそうだ。
先天性心疾患の場合、循環器の医師との相談は必要だが使うことができる。
実際にミレーナを入れて月経痛が改善した人、出血量が減った人もいる。
ミレーナを入れる話は随分と具体性を持っていた。
私自身「ミレーナ入れるんだろうな」と思っていたのだけど、次の診察のときには話が変わっていた。
婦人科内のカンファレンスで、ミレーナはやめようということになったという。
そもそも私の過多月経の原因は抗凝固剤の影響だ。
黄体ホルモンの持続放出で「君、そんな出血したらあかんで」と指令を出したとしても出血そのものがなくなるわけではない。
ミレーナを装着してどれだけ効果があるかは未知数だった。
何より、ミレーナを入れることが刺激となって不正出血が始まる人がいるそうで、
「不正出血が起きれば抗凝固剤の影響でその不正出血の出血量が増えるだろう。結果的にトータルとして出血量が増える可能性がある」と判断された。
そしてミレーナは、うまく装着できても5年程度で入れ替える必要があるというのもネックだった。
本来ミレーナは外来のときに入れてもらうことができる。
でも私の場合は僅かとはいえ入院が必要で、年齢的に最低でもあと3回の入れ替えが必要であり、負担もそこそこあるということだった。
また(先ほど述べたように実際にミレーナを入れている人はいるので、あくまでも私の場合に限ったことだと思って欲しい)、ミレーナは比較的体の外部に近い位置にあるため、なんらかの形で菌が付着しないとも限らないとのことだった。
そうなると心内膜炎などを引き起こす要因となり得ると言われた。
というわけで、婦人科の判断は「ミレーナはやめる」となった。
③子宮全摘出手術
これも、すぐに選択肢から消えた。
正直現実的ではないらしい。
私は幸いなことに子宮はまあそれなりに機能しているそうで、わざわざ子宮を取らなくても、ということだった。
あとはひたすら体への負担の大きさが問題だったようだ。
体にメスを入れること、麻酔をすること、子宮摘出によるホルモンバランスの乱れなどなど、侵襲(しんしゅう)性が高いとのことだ。
(どうでも良いけど、私はこのとき初めて「侵襲」という言葉を知った。脳内で「信州」が浮かんでしまい、「信州…信州といえばりんごだよね〜」などと浮かんだことは恥ずかしい思い出)
④マイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA)
マイクロ波子じゃないよ。波子って誰やねん。
マイクロ波、子宮内膜アブレーション。
このとき初めてこの治療法を知った。
細かい説明は省くとして、月経の出血の正体は、子宮内膜が剥がれ落ちたものだ。
では、その内膜が剥がれ落ちないようにすれば良い。
子宮内膜をマイクロ波で照射し、焼くのだ。
穏やか先生曰くは
「子宮内膜を『焼け野原』にするイメージ」とのことだった。
なるほど、子宮内膜を焼き払い剥がれ落ちる元を断つということだった。
でも効果が絶対とはいえない。
「子宮内膜すべてを焼こうと頑張りすぎると、他の臓器だったり血管を焼いちゃう可能性もあります。だから全体の7割くらい焼けたら良いところかな」
ということだった。
子宮内膜はいくらか焼けずに残る。
その部分からどれほど出血するかはやってみないとわからないようだった。
それでも、今できる最善の策は子宮内膜アブレーションとのこと。
いろいろと説明を聞き、私は子宮内膜アブレーションをすることに同意した。
ただし、ミレーナを入れるよりも侵襲性は高い。
メスを入れるわけではないにせよ、しっかり手術だ。
麻酔も必要となる。
鎮静程度だと、表面は痛くなくても子宮内膜を焼いている痛みははっきり感じるらしい。
なんて恐ろしい。痛いの嫌、ゼッタイ。
とはいえ全身麻酔は避けたい。
ということで下半身のみの脊椎麻酔が検討されたが、なんでも急速に血圧が低下することがあって、そうなると非常に危険とのこと。
結局、麻酔科の最終判断で全身麻酔となった。
入院して、全身麻酔でのアブレーション。
結構大変だなというのが正直な気持ちだった。
それから、なんとなくだけど子宮がもったいないなぁと思った。
出血量うんぬんはともかくとして、ありがたいことにこれまで子宮そのものに大きなトラブルはなかった。
子宮摘出を望んでいるくらいなのに矛盾しているかもしれないが、綺麗な子宮をわざわざ傷つけに行こうとしていることが少しだけ残念だった。
技術面や倫理面は置いとくとして、私のこの子宮を望む人にあげることができたら良かったのになとふと思った。
まあ、どうしようもないことなんだけどさ。
そんな私の感傷はともかく、その日はあっという間にやってきた。
いざ、手術室へ。
術後のはなし
子宮内膜アブレーションは大きなトラブルもなく終わった。
術後の痛みもあまり感じることなく、拍子抜けするくらいだった。
「予定通り焼灼できましたよ」と言われたので、婦人科としても満足のいくできだったらしかった。
が。
退院してからが厄介だった。
今後子宮内膜アブレーションを受ける人もいるだろうし、脅かすようなことはしたくないので細かく書くことは控える。
でもなんというか、すこぶる痛かった。
一定のリズムでやってくる痛み。痛み止めは効かなかった。
何日かに分けて塊の出血があったが、最後はそこそこ巨大な塊だった。
この一定のリズムでやってくる痛み…これはもしや世にいう陣痛みたいなものでは?と思って後日婦人科の穏やか先生に聞いてみたら
「そうですね、陣痛と言えるかもしれません。剥がれ落ちた内膜を全部外に掻き出すことはできないので、その残りが出ようとして子宮が収縮を繰り返したのでしょう」とのこと。
そうか…私、血の塊を産んだのか…。
すごく苦しかったな、そりゃ出産無理だな絶対と妙に納得した。
☆
肝心の効果だが、以前よりは出血量がマシになった。
子宮内膜アブレーションに関するパンフレットをもらい、それを読んだら
「子宮内膜アブレーションをした人の多くは出血がなくなります」とあり、穏やか先生からも「生理痛のようなものは残っても、出血はないに等しくなるかもしれません」と言われた。
せっかく治療するのだからそれくらい効くと思っていた。
「それじゃあナイト用の生理用品とかいらなくなるかもな。もったいないからあまり買わずにいよう」
なーんて考えちゃったりしたのだ。
…世の中はそんなに甘くない。
きっちり毎月、出血がある。
アブレーション後しばらく出血する人はいるそうだけど、これは明らかに違った。生理だ。
ただし、出血量自体は減った。
タンポンを使うほどの出血ではなくなった。
ナイト用のナプキンを使うことはしょっちゅうだし、慌ててトイレに駆け込むこともある。
でも、生活に支障をきたすほどの出血はなくなった。
感覚としていうと、「もとの私の生理よりは出血量が減ったかな」という感じ。
それだけでも随分楽になった。
それにしても、「焼け野原」にしたというのにこれほど出血するとは。
穏やか先生は「とてもうまく行きました」と言っていたし、焼灼しきれていない部分はあるにせよ良い感じに仕上がっているはずだ。
なのにこの量。
どんだけ自己主張強いの、抗凝固剤。
思わぬ副産物は生理痛がほとんどなくなったことだ。
出血量を減らすのが目的で、生理痛に関してははそっちのけだったから、これは嬉しかった。
私は現在、以前のようにがぶがぶ痛み止めが飲めない。
腎機能によろしくないから極力飲まないよう言われている。
飲めるのは(個人的には)生理痛にあまり効果のない優しいものだけ。
だから痛み止めを必要としなくなったのは本当に助かった。
出血量が減ったことで、鉄剤の効果が現れるようになった。
貧血には違いないものの、数値が安定してきた。
するとspo2の回復も早くなった。
心臓への負担が減ったと考えて良いだろう。
トータルとしてみれば、子宮内膜アブレーションをやったことは間違いではなかった。やって良かった。
今後のはなし
それではこれで一安心かといえば、そうでもないようだ。
再発することがあると言われた。
いかに焼け野原になったとはいえ、人間には再生能力がある。
実際の焼け野原にやがて植物が芽を出すように、私の子宮内膜も本来の、あるべき形に戻ろうとする。子宮内膜が再生し始めるのだ。
そうなると出血量は増えて、再発だ。
普段、何か治療したあとは
「頑張れ私の体!再生能力を発揮して、以前の能力を取り戻すのよ!」
とか思うくせに、今回に至っては
「そのまま!そのまま再生しないでお願い」と思うのだから人間とは勝手なものだ。
でもこればかりは私が祈ったところでどうすることもできない。
もし再発したら、もう一度子宮内膜アブレーションをするか、ホルモン治療をして生理を完全に止めるか、というところらしい。
けれどそうした薬は、半年程度といった期間限定でしか使えないとのこと(注射タイプもあるそうな)。
薬を使用している間は確かに出血が止まるだろうけど、やめた途端に出血が再開されるのであまり意味がないようだ。
また、副作用で骨粗鬆症になる可能性が高く、穏やか先生としては使いたくないとのこと。
「ぱきらさんが50歳代や60歳代なら使っても良いんですけどね…」
と言ってくれていて、
おお、そんなに長生き設定してくれてるんだなと嬉しく思った。
まあでも、実際私は長生きするつもりだし、期間限定でしか使えない薬は嫌だなぁ。
そんなこんなで、経過観察中。
どうなるんでしょうね、私。
私だけの課題じゃない
前回の記事でも書いたように、私みたいに貧血や、抗凝固剤の影響による過多月経になっている先天性心疾患の女性は多い。
(もちろん男性でも貧血の人はいるけど、今回は女性の場合に焦点を絞る)
「子宮いらない!あっても良いけど今すぐ閉経して欲しい」
「だよね〜」
などと言う会話が(冗談だとしても)出てくるのだから、どれほど苦労しているか察してもらえるだろうか。
貧血だって本当にひどい。
鉄剤を飲んではいるものの、副作用が出てしまうので誤魔化しながら週に数回飲んでいる人もいる。
あるいは鉄剤では補いようがなく、鉄剤の点滴を定期的に行う人だっている。
貧血は割と多くの人に見られる症状だし、そんな深刻じゃないのでは?
と思う人はいるだろう。
でも、貧血が悪化すればやはり心臓に負担がかかる。
ただでさえ、いわゆる健康な人と同じとはいえない心臓の機能。
負担はできるだけかけたくない。
だから貧血じゃない方が良いに決まっている。
なんとかできるならなんとかしたい。
一方、子宮内膜症をはじめとする婦人科系の疾患を持っている人も多い。
そしてその治療ができないままという人も、これまた多い。
婦人科が「心疾患があるからややこしい」と治療を渋るケースがあったり、循環器内科側があまり重要視せずそのまま放置のこともある(つまり循環器内科と婦人科との連携が全く取れていない)。
あるいは本当に心臓の状態が悪くて、にっちもさっちも手を出すことができない人もいる。
気がついたときにはひどい状態で、これは死んでしまうのでは?というところまで追い込まれるケースだってある(で、そこから手術だなんだとなるので負担は相当に大きい)。
今回の自分のことを振り返ってみる。
私は、非常に恵まれていた。
循環器内科・婦人科・麻酔科・ときどき小児科も加わってカンファレンスをしてくれたと聞く。
他科との連携が取れていたから、私は子宮内膜アブレーションにたどり着けたのだと思う。
あと、病院自体が大人になった先天性心疾患(成人先天性心疾患)患者に対する治療を積極的に行なっている背景もあるだろう。
じゃあ他の病院も連携すればいいじゃんと思うだろうが、循環器内科と婦人科が別の病院のこともあるし、実際なかなか難しいところがあるのではないかと考えている。
☆
ところで、私は子宮内膜アブレーションをして出血量や貧血が改善された。
では、子宮内膜アブレーションを他の人にすすめることができるかといえば、それはできないと思っている。
ミレーナならば妊娠出産を望んだ段階で取り出せば良い。
でも子宮内膜アブレーションは一度処置してしまうと妊娠がほぼできなくなる。
だから例えば20歳代の人におすすめはできないし、したくない。
妊娠出産の可能性がチラッとでもあるならば子宮内膜アブレーションはしないほうが良い。
「あのときあんなことをしなければ良かった」と思っても取り返しがつかない。
もし「やりたい」と思っても、その人が若ければ若いほど、一時の勢いでやってはいけない。
そしてどうか一人で決めるのではなく、医師を含めて周囲との相談がきちんとできた状態で決断して欲しい。
妊娠出産だけじゃない
そもそも、先天性心疾患患者の月経に関して、小児科や循環器内科はどう捉えているのだろう。
現在、先天性心疾患で生まれた子どもたちはその多くが成人を迎えることができるようになった。
それに伴い、女性患者に対しては妊娠出産が可能か、可能ならばどのようにフォローすべきかといったことに力を注がれるようになってきている。
…と、私は感じている。
それ自体は素敵なことだ。
妊娠出産が可能になる人は今後も増えていくだろうし、どんどんそちらに尽力してもらえたらと思う。
子を望む人が(いろいろと経過観察が必要だったり大変だろうけれども)、子を産み、育てる。
私はそんな人が増えたらとても嬉しい。
けれど、女性患者にはそれ以前に月経がある。
そして人によっては抗凝固剤を始めとする、月経に大きな影響を与える薬を飲み続ける必要がある。
自分の体調維持のために飲む薬で、自分が辛い思いをすることがある。
しかもとても長い間。あるいは一生。
周りくどい言い方をしてしまったけれど、私が言いたいことは一つだ。
「妊娠と出産だけが女性患者の課題やあらへんのやで」
こんな気持ち。
だからもっと、月経に対しても関心を寄せて欲しい。
辛い思いをする女性が一人でも少なくなれば良いなと強く思う。
☆
ただ、医師たちとしても手探りの部分があるのだと思う。
以前、私が主治医に
「閉経を迎えた先天性心疾患の人ってこんな苦労してたんですか?」
と聞いたことがあるのだけど、
「うーん、実はあまりよくわからないんだよね」
という返事だった。
これは私の想像だけど、婦人科系の疾患で早くから閉経状態になった人が多いか、もしくは閉経を迎えるくらいのお年頃まで生きた人がまだそれほどいないのだろう(おそらくこちらが多いのでは)。
だから、先生たちにもわからないことが多いのかも。
じゃあ一緒に考えていくしかないのかな、と思う。
それならもっと、生理が辛いよしんどいよ出血量どうしてくれるの、責任取ってとは言わないけどどうにかしてよねぇねぇねぇ!!…くらいは言わなきゃ伝わらないのかもしれない。
妊娠出産への不安や心配はある程度の年齢から出てくる。
けれどそれ以前に
「過多月経は苦しい」
「貧血がしんどい」
そう感じている女性患者がたくさんいると気づいてもらう必要があるのだと思う。
そりゃ伝えたからと言って解決するとは限らないし、なかなか言いにくいことだと思う。
医師が男性だと言ってもうまく伝わらないことも多いし、若い間はやっぱり恥ずかしいもの(個人的にはへっちゃらだけど、人によっては話すこと自体が負担だよね)。
10代とかでの婦人科受診もハードルが高い。
いろんなことがへっちゃらな私でも、初めて内診をした後はちょびっと泣いた。
このあたりについても、小児科や循環器内科にはぜひ目を向けていただきたい。
個人的には、女性患者のQOL向上のためには、早い段階から月経と貧血に対するフォローを始めた方が良いと考える。抗凝固剤を服用しているのなら、なおさら。
☆
私が今回自分のあれこれを書いたのは、私こんなに大変なの!とアピールしたいからじゃない。
…いやまあ、正直そういう部分も多少はあるかもしれないけど。
そうではなくて。
私のようなケースは別に特殊なことではないのだと、いろんな人に知って欲しかったのだ。
もし誰かの中に「なんかいろいろ大変だな」という思いが芽生えたら嬉しい。
また、今まさに過多月経や貧血で辛い思いをしている人がいたら、「私だけじゃないんだな」と、なんとなく共感してもらい、安心してもらえたらとても嬉しい。
そしてその辛さを一人で抱え込まずにいて欲しい。
これは女性患者に限られたことではないけれど、命が助かったから終わり、では全然ないのだ。
その後には人生が続くし、なるべくならその人生が平坦であることを願う。
生きるって、本当に楽しくて大変よね。