師匠は小学4年生
2019年12月26日「はてなブログ」公開
入院すればそこに出会いがあります。
大人になると(今では病室ではカーテンを引いていることもあり、なおのこと)同室の人とお話しする機会は減ってきますが、子どもの時は割とそのハードルが下がります。
そして多くの人に出会います。今日は私が経験した出会いの話です。
師匠!
11歳の入院中に出会ったその男の子、そうくん(仮名)は大人びた子でした。
私の一つ下なので、まだ10歳だった彼。
私が入院するかなり前から入院していたようで、看護師さんたちとも親しげに過ごしていました。同じ部屋になる時・ならない時といろいろでしたが、お互い長期戦に突入していたので仲良くなっていました。
彼はいろいろと私に教えて(知恵を授けて)くれました。
「ぱきらちゃん、そんなん先生に言わなあかんで」
と不調をきちんと伝える大切さを教えてくれたのは彼です。
「あの△号室の〇〇さんはもう長いことおるんや」と他の病室の人たちの情報も豊富でしたし、「あの看護婦さんは〇〇やねんで」といった、そんな個人情報どこから入手してんと突っ込みたくなる話も聞かせてくれました。
彼は心疾患がメインではなかったようです。主体となる疾患にプラスされて心疾患があり、私が入った病棟に入院しているようでした。
彼の入院する前の写真を見せてもらったことがあります。
写真の中のそうくんはとても細かった。でも目の前のそうくんはまん丸としていました。特に顔が丸い。
ムーンフェイスでした。
私はこの頃初めてムーンフェイスという言葉と状態を知りました。
そして彼が「この薬の影響やねん。魔法の薬やで」と教えてくれたその薬はプレドニンでした。そうくんには多毛等ほかの症状も出ていたと思います。私の中でステロイドはそうくんを楽にする薬であり同時に副作用をもたらす、いろんな意味で「魔法の薬」なのだと強烈に記憶に刻み付けられました。
彼はとても頭の良い子だったのだなと大人になって改めて感じています。
決して良い状態ばかりではなかったはずだけれど、にこにこと毎日を過ごしていました。彼のことを悪く言う看護師さんも見たことがありませんでした(長期間入院していれば、あの看護師さんはあの子が苦手…とか思っていることがわかるようになります。子どもはエスパーですから)。
自分の状態をとても冷静に見ていました。
辛いことも多かったと思いますが、感情的になる彼の姿はほとんど見たことがありませんでした。
第三者的視点で物事をみていたように思います。
あの時はわからなかったけれど、私はあの時「冷静になること」がとても大切だと学びました。感情的になっても良い。でも一歩引いて判断を下す必要がある。
その考えは今でも変わりませんし、自分を支える大切な考え方の一つだと思っています。
そうくんは私の師匠です。
たぶん、大人になりたくて
そうくんは頑固でした。
お母さんが付き添いをしようかと言っても、家が遠いこと、下にきょうだいさんがいることもあり「ええねん、僕は一人で大丈夫」と言い続けていました。
今にして思えば、経済的なことも心配していたのだと思います。
付き添い入院はお金がかかる。それは子どもながらに私も感じていたことですから…。
そんなそうくんを見ていて、私は母に付き添ってもらっていることが恥ずかしいなと思う時がありました。
でも私は私だし、彼は彼。次第にそう思うようになりました。
体の状態、性格、生活状況はそれぞれ違うのだから。
それにそうくんも私の母に「おばちゃんおばちゃん、今日こんなんあってんで」といろいろと話をしていたので、それがある種の彼のガス抜きとなっていたのかも…と都合の良いように解釈しています。
そして私は病院での生活によるものか、私の本来の性格なのか、そうくんの影響なのか、看護師さんに
「ぱきらちゃんは大人びてるというより中身がおばちゃん」
と言われるまでに成長(?)しました笑
私はそれが嬉しかった。早く大人になりたかった。
悲しくて泣いても解決なんてしなくて、このしんどさや辛さを医師や看護師、母にきちんと伝えたかった。伝える力が欲しかった。
私は子どもの頃から今に至るまでずっと「伝える」力を欲し続けています。
きっとそうくんも早く大人になりたかったんじゃないかな。
そう思うことがあります。
☆
私とそうくんは誕生日が近かったので、長期入院組で(他に入院患者さんもおらず迷惑がかからない状態だったこともあり)誕生会をしました。
ケーキを買ってきてもらって、でも私もそうくんも当然パジャマで。
言ってしまえばそれだけのことなんだけど、特別な12歳の始まりでした。
そうくんとは退院して数年の間は連絡を取り合っていました。
が、お互いだんだんと自分の生活で手いっぱいになるし、思春期で照れもある。
いつの頃からか連絡を取らなくなりました。
今、どうしているかな。
元気(体調が落ち着いているという意味)で暮らしているかな。
大人になっているかな。
お互いすっかりおばちゃんとおっちゃん。
理想の大人とは違うだろうけど(私だけかも…笑)、生きて大人になっていると良いなぁ。
あなたにとっての「師匠」はどんな人ですか?
「そうくん」の行方は分かりませんが、当時一緒に入院していた人の中には旅立った人もいます。皆、頑張ってたね。
(2024年11月末追記)