チェルシーが甘かったから

チェルシーの販売が終了すると言う。
そのニュースを聞いて、本当にショックだ。

私は昔から、飴ちゃんが好きだけど苦手だ。
飴を舐めているうちに、薄くなった飴で舌を切ってしまうのだ。
子どもの頃は痛くて嫌だったし、ある程度の年齢になってからは抗凝固剤(血液を固まりにくくする薬)を飲むようになったために一度舌を切ると血がなかなか止まらず、血の味が長々と続くのが気持ち悪い。
食べたいけれど、どうしても飴ちゃんを敬遠しがちであった。

が、どうしたことか私の場合、チェルシーだけは舌を切らない。
ということで、チェルシーは子どもの頃から好きなのだ。
もちろん味は美味しい。
バタースカッチは甘みが強く、ヨーグルトスカッチは爽やかで、コーヒースカッチは(コーヒーが飲めないので)大人の味という印象。

私は先天性心疾患(生まれた時から心臓病)なので、物心ついた頃から月に一度のペースで通院しているのだが、診察終わりに病院の売店でチェルシーを買ってもらうのが嬉しかった。
売店で見かけるのは箱のチェルシーがほとんどで、買ってもらった後は家族と一緒に食べた。
(ちなみにチェルシーと同じくらい売店で買ってもらって嬉しかったのはボンタン飴だった)
親がどう思っていたかは知らんけど、チェルシーは頑張って通院している私へのご褒美のようなものだった。

入院中もよく登場していたように思う。
入院すると基本的にお菓子などの持ち込みは禁止なのだが「飴ちゃんならいいよ」ということで、チェルシーを消灯台に潜ませていた。
たまにビスコもこっそり食べていたのだけれど、同室の子が厳しい食事制限を受けており、ビスコの噛む音がその子に聞こえたら嫌だなとか申し訳ないなとか思って、なんとなく口が寂しい時、甘いものが欲しい時、口にしたのはチェルシーだった。
コーヒースカッチでない限り香りは強くなかったし、多分バレていなかった…と信じたい。

大人になるにつれ購入頻度は落ちたものの、それでも時折チェルシーを買うのが好きだった。
そういえば、一時期ロイヤルミルクティースカッチがあったように記憶している。
それからヨーグルトスカッチにフルーツが混ざったようなものも。
あの二つは好きだったなぁ。

そして昨年、私は久しぶりにチェルシーと向き合うことになった。

……だいぶん大袈裟である。

疾患持ちである以上、折に触れての入院は避けることができない。
40歳台後半に突入していた私、昨年も順当?に入院した。
ただ昨年はいつもより状態がよろしくなく、なんやかんやと長引くし治療もしんどかった。
結果として体重が32kg台になってしまった。
ガリガリになると体力が落ちる。
また肌は乾燥してカッサカサ、お尻は座るだけで痛く、背骨に肋骨は浮いてくるし、胸の膨らみはどこへ行ったのかという始末である。
それでも何も食べられなくて、いっときはお茶でさえ飲むと吐き気がする時期があった。あるいは気分転換にとつけたテレビの情報番組で、どこかの料理が紹介されているのを見ても吐きそうになった。これは今までの私にはなかったことで、自分自身で戸惑った。

さて、私が入院していた病院は昨年の段階であっても面会禁止であった。
世間的には某感染症は遠い昔のことかのようだけれど、今も医療機関では厳しい面会制限を設けているところが多くある。
それは患者や医療者を守るためで理解はしているものの、実際に家族に会えないのは本当に辛かった。
そんな中での夫とのやりとりは電話かLINEである。
夫は少しでも私には何か食べられそうにないかを聞いてくれていた。
医師からはなんでも食べられそうなものは差し入れてもらって構わないと言われており、いろいろなものを持ってきてくれた。
そんな中の一つに、チェルシーがあった。
なんとなく、チェルシーが食べたかったのだ。

コーヒースカッチを舐める。
残念、気持ち悪くなった。

ヨーグルトスカッチを舐めた。
ほんのりとした酸っぱさが心地良くて食べられた。

バタースカッチを舐めた。
甘い。
甘いぞ。
甘いの美味しいな…。

美味しいなんて思えたの、久しぶりかも。

そうか…、チェルシーだったか。
バタースカッチ、君だったか!!
⭐︎

その後少しずつ体調は上向いてひとまず退院できた。
それは治療が功を奏したからであり、食べられるようになったからであり、医療者やちょっとくらいは私の努力の賜物で、夫の支えがあったからで、正直チェルシーのおかげではない。

でも家族の誰にも会えなくて寂しくて、体調はすこぶる悪くて、痩せてしんどくて、そんな中でバタースカッチの甘さに救われたのは事実だ。
食べられるきっかけをくれたのも事実だ。
だから感謝しているし、子どもの頃から変わらずチェルシーが好きだ。

そんなチェルシーの販売終了。
それはもうショックである。

メーカーさんとしてはいろんな調査をして出した結論であり、覆ることはないだろう。
だけどいつか、復活してくれると嬉しい。
そういうふうに思う人間がいることをメーカーさんが知ってくれるといいのになと、思いつくままにnoteに書いてみた。

わずかでも、私のチェルシーへの感謝と愛があなたに届くと良い。

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ぱきら
あまり本を読んで来なかった私、いただいたサポートで本を購入し、新しい世界の扉を開けたらと考えています。どうぞよろしくお願いします!