見出し画像

【きょうのソネット】正字旧仮名文語体

まあ読めるんよ
十代のころ滝沢馬琴とか読んだし
十返舎一九も上田秋成も読んだしな
だからまあ無理すりゃ書けなくもないんだな

幕末や明治の本も読んだしな
あ、明治の本ってさ、むしろ
お江戸の本よか読みにくいよ
漢籍っぽいんだよ漢籍ムズいよ

嗚呼麗しきいにしへのことのはよ
我に親しきと言へど我の物ならず
佳人を厚き緞帳越しに仰ぐかのやうな

唐人の寝言よかわかるけどね
だって古くても日本語だしね
私は正字旧仮名は大好きよ好きよでもね


※※※

正字旧仮名文語体はね 恥ずかしいんだよ
見たくないくらい恥ずかしいんだよ
いやもちろん私の詩なんか
いちばん死にそうに恥ずかしいの

わざわざ旧仮名文語体で述べる
おっさんの政治的表明
あるいはとっても共感できる
死にたがってるワコードの絶望

そういうのはあなたの言葉で書いてよ
正字旧仮名文語体にしないでよ
いや私も正字旧仮名文語体好きだから否定しにくいけど

最低限自分の言葉でうたってよ
正字旧仮名文語体なくともうたえるように
私は私の言葉でうたうわよ


※※※

といいつつ私は正字旧仮名文語体で書くことがあります。

以下はその例。

「愚かなる戀の顛末」

憂ひと戀を取り違へし愚かなる女あり。
己が憂ひは詩人の言の葉ゆゑと逆恨みして、
詩人の口に轡を填め己が耳に大鋸屑を詰めしが、
詩人の指ひらひらと動きなほ言の葉を綴りたり。

されば女、出刄疱丁にて詩人の指を切り落とし、
己が兩眼を瓦斯の炎にて灼きたれど、
詩人の言の葉の數々、女の腦髄を驅け巡り、
夜も晝も五月蠅ければ眠るを得ず。

消えやらぬ言の葉にやうやく己が心悟りて、
女いよよ錯亂し亂れたる髮も其の儘に、
夜の街を經巡り彼の詩人の姿を求めたり。

されど彼の詩人既に西方に去りしかば、
最早此の世にては出逢ふこと叶はず。
あはれ言の葉ゆゑ詩人は死し女は狂せしとぞ。


※※※

まあ好きに書けばいいのですが、
私は14行詩が好きなんだなあと自分で思いました。

いいなと思ったら応援しよう!