【特集】世界の今。新型コロナウイルスが変えた私たちの生活(15)——「ドイツ・ベルリン」の今
こんにちは。ドイツ・ベルリン在住の宮本薫です。
ベルリンでは3月後半から、ドイツ版ロックダウン令が出ました。生活必需品を扱わない店は閉店、飲食店はテイクアウトとデリバリーのみ、同居して居る人以外との接触はできるだけしない、学校は休校などです(州により、厳しさは異なります。下記はベルリンの状況です。)
「散歩」や「スポーツ」目的の外出は認められ(細かいルール有り)、公園にシートを敷いてピクニックすることも許可されています。晴れた日に、テイクアウトのアイスクリームを片手に歩くこともできますし、空き地で子供達がサッカーをすることもできます。
毎週どこかで開かれる青空マーケットの営業も許可されているため、新鮮な野菜や花を購入することもできます。何故かお花屋さんと書店は営業を許可されていて、ロックダウンになってからも、花を持って歩く人をよく見かけます。
スペインやイタリアなどの、許可証がないと外に一歩も出られないロックダウンに比べるとかなり緩く、最大限人々の自由に配慮されたものでした。
Photo:マーケット。込み合う時間帯は入場制限があるが、いつも通り、週に二回の営業が許可されている。
ドイツでは、4月19日現在143,724人の感染が確認され、そのうち88,000人が回復、4,538人が亡くなりました。ICUベッド数は19,288床あり、58%が空いています。幸いなことに一人の感染者からの再生産数が国の目標値である1を下回り、ドイツの新型コロナ禍は「管理可能」だと判断され、今週から少しずつ規制が解除されることになっています。
■ドイツの感染者数の推移
https://interaktiv.morgenpost.de/corona-virus-karte-infektionen-deutschland-weltweit/
■ドイツのICU空き状況
https://interaktiv.morgenpost.de/corona-deutschland-intensiv-betten-monitor-krankenhaus-auslastung/
■規制解除の詳しい内容
https://www.de.emb-japan.go.jp/itpr_ja/konsular_coronavirus160420.html
Photo:スーパーの前で並んで待つ人々
まずは800平米以下の小売店の営業が許可され、アビトゥア(大学進学テスト)を控える高校生の授業が始まります。小学校、中学校などの授業も段階的に再開予定で、今後2週間おきに感染の状況を評価し、規制の解除について話し合われていく予定です。
ただし大規模なイベントやサッカーなどのスポーツは8月31日までは再開されませんし、私的な旅行や旅行者の宿泊も禁止。他人との接触を最低限にすること、1.5メートル距離を開けることなどは続きます。また、マスクの着用は義務ではありませんが、強く推奨されます。
<私たちの生活と心境の変化>
ドイツはこの一ヶ月の間に「コロナ前」「コロナ中」を経験し、今、「コロナ後」に向かって変化が起こっています。まだあまり出歩けないので、私たち家族の視点から見た「ロックダウン」と「コロナ後」について思うことを書かせてください。
我が家は、ギムナジウム7年生(日本の中学1年生)の娘と、小学校4年生の息子との三人暮らしです。3月中旬、休校が決まった頃のベルリンでは、まだ感染者数が少なかったこともあり危機感を持っている人も少なく、「子供はかからない」と思っている人がほとんどでした。
学校では終日土足、手洗いも満足にできない状況。感染対策はほとんど取れない状況でした。なので、休校が決まった時は心からホッとしました。子供達も長い春休みに大喜び。
娘はオンラインのプラットフォーム上で先生やクラスメートとやりとりしながら課題を与えられています。息子はAntonという学習アプリ上で先生から与えられた課題を勉強しています。Antonでは、一定量終わるごとにゲームなどのご褒美が与えられるので、マイペースに楽しく勉強しています。
娘はクラスメートと私的なおしゃべりをしているのでまだ良いのですが、息子はドイツ語を話す機会がほとんどなくなってしまい、語学力が落ちているのが心配ですが、かわりに日本語の語彙が増えています。
■Anton
https://apps.apple.com/de/app/anton-schule-lernen/id1180554775
Photo:テイクアウトのみの営業に切り替えた近所のカフェでアイスを選ぶ。
朝ごはんは娘が担当し、昼と夜は私が作ります。掃除洗濯は交代で、好きな時に行います。買い物はできるだけアマゾンフレッシュなどのオンラインでまとめ買いし、生鮮食品や花は週に二回開かれる青空マーケットへ、開店直後の7時半に買いに行きます。昼ごはんの後はみんなでゲームをし、負けた人が洗い物をします。
晴れていたら午後は散歩に出かけ、私はカフェで美味しいコーヒーをテイクアウト。子供達はアイスを食べます。大きな変化のない毎日なので、食べることが楽しみになります。朝食を食べながら、今日のランチについて相談し、子供達にリクエストされたうどん、春巻き、肉まん、ピザ、餃子、パスタなどを小麦粉から作りました。
ドイツでは、2月後半から小麦粉が品薄です。イーストもスーパーでは手に入りません。パン屋さんは営業しているので、出来合いのパンを買うことは可能なのですが、みんな家にこもってコネコネしているのでしょうか。粉を混ぜて、捏ねて、発酵させて焼くという作業には、心を落ちつかせる効果があるのかもしれません・・・。
トイレットペーパーなどの紙類は品薄が続いていますが、朝一番でドラッグストアに行けば手に入ります。最近手に入らないものは「ゴム」です。マスクを手作りしようと思い探しましたが、どこも売り切れでした。アマゾンでは、ミシンも入荷待ち。ベルリンの有名生地店のオンラインショップでは、配送が追いつかないので注文の受付を停止していました。
ドイツでは、マスクをつけるのは医療者と感染症の人だけというイメージがあり、私たちも使いにくかったのですが、最近はマスクについての啓蒙が進んできたため「感染しない・させない」ために着用する人が増えてきました。近所では20~30%程度の人が使っている印象です。使い捨てと布マスクの比率は半々くらい。
個性的な人が多いベルリンらしく、布マスクは様々な色柄で、ファッションや雰囲気に合わせている人が多いです。生地もなかなか手に入らないので、家にある古着で作られたのかもしれません。
また、野菜や花の苗、土、種などのガーデニング系がよく売れているそうです。もちろん美しいもので癒されたい気持ちもあるでしょうが、質実剛健なドイツ人。あまり買い物に出かけなくて良いように、家で色々育てているのかもしれません。
ドイツ人はモノポリーのようなボードゲームが好きな人が多く、家族や親族、友達同士で集まった時、食後はゲームをすることがよくあります。そんなゲームが、3月、4月は空前の売れ行きだということもニュースになっていました。
Photo:食後のゲーム。モノポリーは時間がかかりすぎるので・・・
娘がピアノを弾くのですが、今までは時間に追われて常に練習時間の確保にプレッシャーを感じていたようです。しかし今は、気が向いた時に好きなだけ弾いています。私も、以前は「早く練習しなさい」「早く宿題しなさい」と、常に子供達を急かしていたのですが、休校になってから「早くしなさい」ということがなくなりました。子供達も私も、外の予定に合わせる必要がなくなり「早くする」必要がなくなりました。
朝7時頃、窓から差し込む光とともに自然に目覚め、家族のペースで一日を過ごす。こんなことは、子供達が生まれてから初めてかもしれません。
これから学校もお店も徐々に再開し、「コロナ後」が緩やかに始まりますが、コロナを気にせずに生活できるようになるのは早くて2年後だと言われています。これからの2年間はどんな生活になるのでしょう。今までの「広く・浅く・早く・多く」から、「狭く・深く・ゆっくり・少し」に変わっていくのではないかと思います。
しばらくの間は、多くの人々が一箇所に集まることも、大量消費も難しくなります。多くの人と浅く交流する形から、家族、パートナー、本当に親しいひと握りの人、そして自分自身と深く関わる形に変わらざるを得ません。地産地消や自給自足の価値が上がるでしょう。
昔、シューマッハーの「スモール イズ ビューティフル」を読んだ時、「素晴らしいけれど、現実を変えるのは難しい」と思いましたが、もしかしたら世の中の方向は急激に、シューマッハの世界に変わっていくのかもしれません。
by パケトラライター 宮本薫(ドイツ・ベルリン在住)
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