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北欧流「もったいない」の解決法。アプリが2つの業界に革命を起こした

by パケトラライター 鐙麻樹(ノルウェー・オスロ在住)

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Photo:閉店直前、お店が「もったいない」と思いながら捨てる食品。でも、それ、なんとかできないかな?( 公式サイト https://toogoodtogo.com/en より)

「作りすぎ、買いすぎ、捨てすぎ」にストップ!

環境意識の高い北欧では、これまで当たり前だった大量生産・消費のサイクルに、改革を起こすスタートアップが次々と立ち上がっています。特に現地で話題の2社をご紹介しましょう。

ひとつは、閉店直前になった飲食店が、捨てるのは「もったいない」と思っている食品を、安い価格で市民に売るアプリ。もうひとつは、自分がたまにしか着ないお気に入りの服を、誰かにレンタルするファッションサービスです。

デンマーク発、食品ロス対策アプリ「Too Good To Go(トゥー・グッド・トゥー・ゴー)」

「Too Good To Go」がリリースされたのは2016年。首都コペンハーゲンにいた人々が、お店が閉まった後にあまりにたくさんの食品が捨てられている現状をなんとかしたいと思い、立ち上げました。

現在は北欧や欧州の13か国でリリースされており、3万3千以上の提携企業と176万人以上のユーザーと共に、食品ロスを減らすための努力が続いています。なんと、これまでに2440万回分もの食事が捨てられずに済みました!これは、6万1000トンに相当する二酸化炭素の排出量削減に相当します。2019年には、ノルウェー最大級のイノベーションイベント「オスロ・イノベーション・ウィーク」で最優秀賞を受賞しました。

使い方は簡単。スマホの専用アプリで、近隣の飲食店を選択。閉店間近、賞味期限などが近いなどの理由で、もったいないけれどまだ食べることができる食品を、お店側が安い価格で提供しています。購入したら、お店まで商品を取りに行くだけ!

既にデンマーク、ノルウェー、ドイツ、オランダ、フランス、スペイン、イタリアなどに広がり、2020年にはスウェーデンでも開始予定。日本には参入していないので、スマホの設定地域が「日本」となっている場合は検索してもヒットしませんが、どういう内容なのか気になりませんか?

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Photo: アプリを開くと、近隣のカフェ、パン屋、レストラン、ホテル、コンビニ、ガソリンスタンド、スーパーなどが、その日に安い価格で提供している食品がでてきます。

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Photo: 「食品ロスを一緒に減らしましょう。作りすぎてしまった商品を袋に詰め込みました」というようなメッセージも表示されます。

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Photo: 余った商品をお店側が詰め合わせてくれます。もちろん、紙製の袋を使用しています。( 公式サイト https://toogoodtogo.com/en より)

心を込めて作った食品を捨てずに済むことで、料理人さんも心が痛まずにすみます。

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Photo: 内容はその日によって異なります。( 公式サイト https://toogoodtogo.com/en より)

価格はそれぞれ異なりますが、ノルウェーでは1700のお店が参加しており、1回分の食事が30~50ノルウェークローネ(350円~600円程度/2019年11月時点)。通常価格だとこの3倍はします。

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Photo: パンなどが入った袋は「魔法の袋」と名付けられています。確かに、このアプリで起きている現象は魔法のよう( 公式サイト https://toogoodtogo.com/en より)

2015年を振り返ると、当時はまだまだ食品ロスは話題に上がっておらず、食品を捨てている事実を飲食店は認めたがらない風潮があったと、同社ノルウェー支部の広報ハンネ・ヨハンセン氏は取材で語ります。

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Photo:食品ロスという社会の課題を解決するアプリ、他国への広がりの速さから、需要と供給の高さが伝わる( 公式サイト https://toogoodtogo.com/en より)

「今では全く状況が異なります。飲食店も企業も、食品ロスを減らし、環境問題を解決することに貢献したいと、自発的に私たちに連絡を取ってきます。リリースした当初の課題は、このアプリに懐疑的だった飲食店の説得でしたが、北欧の大手ホテル・スカンディックなどがすぐに協力してくれて、私たちの活動を温かい言葉で広めてくれました」

食品ロスを減らし、人々に食事を届け、お店の負担も減らす。みんなで環境と気候対策に取り掛かることを可能にした——「これは、ただのアプリではない」とヨハンセン氏は続けます。

ノルウェー発、ファッション業界に起きている革命

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Photo:あなたのドレス、自分の家以外の場所に保管してみるのはいかが?

こんなことはありませんか?

・ファッションが大好き
・たくさんの服を買ったけれど、もう部屋に収納するスペースがない
・お気に入りの服があるけれど、たまにしか着ない。でも、処分したくない
・服を買うのは好きだけれど、環境のことを考えると、これ以上買うのはよくない。なんだか罪悪感
・週末の結婚式やパーティー。その日だけしか着ない服に、お金をかけるのはもったいない
・エシカルファッションは、どうすれば始めることができるの?

「Fjong(フィヨン)」は、ノルウェー語で、服をおしゃれに着ている人に言う言葉。「あなたはとってもフィヨンね!」と。フィヨン社では、女性たちが捨てたくはないけれど普段はあまり着ない服を預かり、他の人に有料で貸し出します。売り上げは、所有物と企業側と平等に五分五分で。

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Photo:オスロにあるショールーム。ゆっくりとするスペースもたくさんある、友達の家に遊びにきている感覚

現在は5万人のユーザーと、5000着の服、1000人の服を貸し出す人がいます。25~35歳の若い女性を中心に、中学生からおばあちゃんまで幅広い人に愛されています。ドレスをたくさん持っている人は、フィヨンのショールームを「自分のクローゼット」として保管し、貸し出すことでお小遣いも入ります。

首都オスロにあるショールームには普段着もありますが、ドレスやワンピースなど、とっておきの機会に着るおしゃれ着が圧倒的に多め。特にこれからクリスマスパーティーや忘年会の時期がくる12月は、ドレスを借りたいという女性たちが殺到するそうです。

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Photo:ブランド品のバッグなども

服を貸したい人は写真を撮ってフィヨン社へ送り、フィヨン社側がショールームに追加したい服かを判断します。服を借りたい人は、ショールームを直接訪問して試着するか、公式サイトで申し込み郵送してもらうこともできます。

創業者であるシグルンさんとマリエさんは、職場に着ていく服に迷うことに疲れ、同僚に服を貸し始めたたことがフィヨン社を立ち上げるきっかけになりました。

「私たちは、常に新しい服を持ち、おしゃれであることを期待されます。そのスタンダードがもたらすものは、数回しか着られずにクローゼットの中でぶらさがっているだけの、高価な服ばかりです」と代表のシグルン・スーベルドさんは取材で答えます。

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Photo:アクセサリーの貸し出しもしている

服を着た後は、お店に直接返却するか、返送することができます。洗濯は企業側がします。

フィヨンのビジネスコンセプトは、ファッション業界ではこれまで無かったものでした。「安くて質が悪い服を生産しすぎ・消費しすぎ・捨てすぎ」ということは、ノルウェーではずっと議論されています。でも、解決策はまだまだ足りていません。

「私たちが服を着る回数を今よりも2倍にすれば、カーボンフットプリントは44%減らすことができます。『所有するのではなく、借りる』という新しいスタンダードにしていきたい」とも答えたシグルンさん。

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Photo:お気に入りだけれど、あまり着ない服。誰かに有料で貸し出してみては?

この活動は、特に現地の女性の政治家や働く女性たちから大きな支持を受けています。影響力のある女性たちが、インスタグラムなどで絶賛の嵐!「ほら、このドレス、フィヨンで借りたのよ」という投稿は、よく見るものになりました。

例えば日本女性なら、たまにしか着ない着物や浴衣を貸し出すと、需要があるかもしれませんね。

ビジネスのヒントに。「パケトラ」

by パケトラライター 鐙麻樹(ノルウェー・オスロ在住)


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