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【特集】世界の今。新型コロナウイルスが変えた私たちの生活(9)——「アメリカ・オレゴン」の今

私が住むアメリカ合衆国オレゴン州では、3月23日から外出禁止令が実施されています。現時点(4月14日)の累計感染者数は1,584人、うち死亡者数は53人。甚大な被害が伝えられるニューヨーク州と比べるとかなり少ない数字ではありますが、しかしながら感染の恐怖は私達の生活と隣合わせにあることを、日々、感じています。

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Photo:オレゴンの春の風物詩チューリップ・フェスティバルも今年は中止になった(写真は2019年4月のもの)

お隣シアトルでの感染爆発から、危機感がリアルに

オレゴン州で最初の感染者が確認されたのは、2月28日。そこから1人、また1人と感染者が増えていくも、感染者のほとんどが同じ老人ホームでの施設内感染だったため、オレゴニアン(=オレゴン住民)の多くは「高齢者だけ気をつければ大丈夫」と他人事のように捉えていました。まだ、この時点では。

同じ頃、日本では既に新型コロナウイルスの影響からトイレットペーパーの買い占めが起こっていましたが、私がそれをオレゴニアンに話すと、みなキョトンとした反応。「日本では風邪をひくと、トイレットペーパーをたくさん使うの? 面白いね!」と笑われたりもしました。ところが…

オレゴン州と隣接するワシントン州シアトルでの感染爆発が報道されて以来、事態は急変しました。オレゴン州で最も栄えているポートランドはワシントン州との州境にあり、シアトルからは車で2時間30分ほどの距離。ポートランドで感染が広がるのも秒読みなのでは!?と、新型コロナウイルスに対する危機感が一気にリアルなものに変わったのです。

3月も2週目に入る頃には、街はすっかりパニックムード。人気スーパーチェーンのトレーダージョーズでは、冷凍食品やパスタ、パン、缶詰などが売り切れ、すっからかんになった棚を掃除するスタッフの姿が各店で見られました。

トイレットペーパーなどの紙類はどこのスーパーでも売り切れになっていて、警察・救急の番号である911には「トイレットペーパーがない!」とパニックになった人からの電話が相次ぎ、警察が「911に電話をしてもトイレットペーパーはありません」と声明を出すほどの騒ぎに。

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Photo:オレゴン州ニューポート市警察は「911に電話してもトイレットペーパーはありません」と市民へ警告

3月12日から学校はすべて閉鎖、17日からは全ての飲食店の店内サービスと25人以上の集まりの禁止が発令されました。19日には急を要さない医療の利用を見送るよう命令が出ました。と同時に、州知事が「不要不急の外出を避け、必要な外出でも約1.8mのソーシャルディスタンシングを保つように」と住民に要請しました。

しかし、週末になると、海沿いのビーチタウンや郊外のハイキングトレイル、自然のレクリエーション施設に人々が殺到したのです。オレゴンの長い冬が終わり、ようやく日差しが明るい春の陽気に変わるこの時期、外に出たい気持ちのほうが勝ってしまったようです。

そんな状況に怒った州知事は「要請じゃダメだ、やっぱり罰則ありの禁止令が必要!」と、3月23日に外出禁止令の発令に踏み切りました。

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Photo:外出自粛要請が出ているにもかかわらず、ビーチには人や車がぎっしり。

オレゴンの外出禁止令「Stay Home, Save Lives」

この外出禁止令は、オレゴン州では「Stay Home, Save Lives」と名付けられています。主な内容は以下の通りです。

・エッセンシャルワーク(市民生活や社会維持のために必要な仕事)以外はすべて在宅勤務または休業

・大人も子供も外出禁止(生活必需品の買い出し、医療機関への通院、エクササイズ目的の散歩等はOK)

・外出の際は1.8メートル以上のソーシャルディスタンシングを厳守

・パーティや会合はその規模に拘らず全て禁止

・レストランなどの外食産業は、店内サービスの禁止。テイクアウトやデリバリーのみの営業はOK

・医療機関は緊急を要するもの以外は閉鎖(歯科・眼科なども含む)

・美容院やネイルサロン、マッサージサロン、リテイルショップなどエッセンシャルでない店舗は閉鎖(日用品・食料品を扱うお店、薬局は営業OK)

・上記に違反すると、最高30日間の勾留または1,250ドルの罰金

オレゴン州政府によると、感染が広がる前にこの法令を実施したことにより、感染拡大が大幅に制御されていると伝えられています。確かに、隣接するワシントン州の数字(4月14日時点の累計感染者数10,538人、死亡者数516人)と比べると、オレゴンの数字はかなり小さいです。

また、当初は感染のピークが5月中旬ごろになると予想されていましたが、現在では4月中旬に早まるとの見通しが出ており、「Stay Home, Save Lives」が感染防止に貢献していると見られています。

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Photo:これから見ごろを迎えるポートランドの名物ローズガーデン。公園への入場はできるが、駐車場は閉鎖されている

しかし、まだまだ油断はできません。外出禁止令がいつ解かれるのかは不明で、学校も現時点では5月までとなっていますが、おそらく今年度いっぱい(8月まで)は閉鎖が続くと言われています。ちなみに学校はオンライン授業に切り替わり、学生は自宅から授業を受けています。

アメリカの学校では年度末にあたるこの時期、通常であれば卒業式やプロム(ダンスパーティー)といった華やかなイベントが続きますが、もちろん全て中止です。これには学生も親御さんも、大ショック。アメリカでは、卒業式とプロムは非常に大きな意味を持つので、それが体験できない子供たちのことを思うと泣けてきます…。

とはいえ、ニューヨークをはじめとする被害の大きい他州の状況を考えると、外出禁止を解くわけにいかないことは明白です。今が踏ん張り時だと、みんな涙をのんで耐えています。

感染のホットスポットは、のどかな農園地帯

私はオレゴン州の中でもマリオンカウンティという地域に住んでいます。ポートランドから車で約1時間ほどの場所で、ワイナリーや農園、牧場が広がる、のどかな農業地帯です。お店が集まる市街地もありますが、それ以外の場所では意識せずともソーシャルディスタンスが何十メートルも取れるくらい、人はまばらです。

まさに「アメリカの田舎」をそのまま形にしたような地域なのですが、なんとこのマリオンカウンティが、オレゴン州で最も感染拡大しているホットスポットなのです。

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Photo:マリオンカウンティには、絵に描いたようなアメリカの田舎の風景が広がる

オレゴン州で最も栄える代表都市ポートランドはマルトノマカウンティに属するのですが、マルトノマカウンティの人口に対する感染率は約0.05%なのに対し、マリオンカウンティでは約0.09%にものぼっています。人口が密集しているポートランドのほうが感染が広がりそうなのに、不思議ですよね。

専門家の分析によると、オレゴン州内で初の感染者が報告されたのがマリオンカウンティであることから、感染発覚より数週間前には既にコミュニティにウイルスが広がっていた可能性があるとのこと。「Stay Home, Save Lives」が実施されるまでに、十分ウイルスが拡散してしまったことが原因だろうと言われています。

実際、私の夫の同僚からも感染者が出ており、ウイルスの脅威を実感しています。とにかく外出を控える、人との接触を避けるしかありませんね。

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Photo:地元農家が経営するグロッサリーストア。10人までの入場制限があり、客はソーシャルディスタンスを保ちながら待つ

外出禁止令が出ている中、オレゴンでの暮らし

私が住んでいる地域はワイナリーや農園に囲まれているのですが、農業はエッセンシャルワークに含まれるため、春のこの時期は整地や種まきにと畑は大忙し。そんな景色に囲まれていると、国家全土に緊急事態宣言が出されていることを忘れてしまいそうになります。

ですが、お店に行けば、その違いは歴然。スーパーマーケットでは入場制限がかけられ、入店の列に並ぶ人の多くがマスクを着用しています。使い捨てのマスクは医療機関にまわされているため、一般の人は布製の手作りマスクをしている人がほとんど。これまでマスクを着ける習慣のなかったオレゴニアンですが、人々の意識の変化を感じます。また、使い捨てのゴム手袋を着用している人の姿も目立ちます。

スタッフも、もちろんマスクとゴム手袋を着用。ショッピングカートはこまめに消毒されます。また、持参したエコバッグにウイルスが付着している可能性があることから、お店によってはエコバッグの使用を禁止するところもあります。

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Photo:カートやバスケットなど、人の手が触れるところはしっかり消毒してくれるので、安心

もともとクレジットカードやデビットカードでの支払いが主流でしたが、現金にウイルスが付く可能性を考慮し、多くのお店では現金を受け付けず、カードでの支払いのみに切り替えています。

外食産業はテイクアウトやデリバリーのみ営業可能となっているため、これを期にデリバリーサービスを始めたり、テイクアウト専門メニューを出すレストランが増えました。

テイクアウトの場合、あらかじめ電話やウェブサイト経由で希望のメニューをオーダーし、食事が出来上がった頃に来店して引き取ります。こうすることで、お店での滞在時間を最小限にし、感染拡大の阻止につながります。また、注文した食事をスタッフが車まで持ってきてくれる「Curbside Pickup(カーブサイド・ピックアップ)」を実施するお店もあります。

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Photo:持ち帰り向けに営業を続けているレストランは、このように看板を道路に出してアピール

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Photo:カーブサイド・ピックアップを実施しているお店では、注文時に車種を伝えると車まで品物を持ってきてくれる

自宅待機で、オレゴニアンは何をしている?

ポートランド中心地などの一部を除き、オレゴンは基本的に郊外・田舎です。そのため家が大きく、広めの庭やガレージがあったり、隣の家との間隔が離れていることも珍しくありません。何週間も自宅にこもらなければならないこの状況下では、田舎暮らしのメリットをとても感じます。

こんな時だからと、車や家のメンテナンスをしたり、室内の模様替えをする人が増えています。DIYが盛んな土地なので、自分でお風呂のタイルを張り替えたり、壁のペンキを塗り直したりと、みんなお家改造のプロジェクトを楽しんでいます。

また、庭や玄関ポーチの植え替えをしたりと、ガーデニングに精を出す人も続出。せっかくなら食べられるものをと、家庭菜園を始める人も増えているようで、オレゴン州立大学が主催するオンラインの野菜栽培コースには17,000人もの人が参加しています。

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Photo:ガーデニング用品店には色とりどりの鉢植えがそろう

お料理に凝る人もいます。これまで決して売り切れることのなかった小麦粉が、どのお店でも売り切れていることから、ホームベーカリー人口が増えているのがわかります。オレゴン州はフルーツやベリーの産地でもあるので、そういった新鮮な農産物を使ったケーキやパイを焼く人が多いようです。

外食ができないので、家でのワイン消費量が急増しているとの報告もあります。オレゴン州には大小さまざまなワイナリーが数多くあるので、毎日違う銘柄を飲んでも味わいつくせないほど。そんなワイナリーマラソンを自宅で楽しむ人も多いのかもしれません。

興味深いのが、自宅待機によってマリファナの消費量が増えていること。ニュースによると、去年の同じ時期と比べて25~30%もマリファナの売上が伸びているそうです。

オレゴン州では医療目的およびレクリエーション目的でのマリファナの使用が許可されており、医師の診断書がなくてもマリファナ専門店で気軽に商品を購入することができます。医療目的で使用する人もいることから、マリファナ専門店はエッセンシャルワークとみなされ、通常営業を続けています。

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Photo:オレゴンのマリファナショップでは、オンラインや電話でのオーダーを受け付ける店もある

新型コロナウイルスが浮き彫りにした社会問題

この緊急事態の中、これまで潜在化していた様々な社会問題が目につくようになりました。そのひとつが、特定の人種・宗教に対する差別意識。COVID-19の発生源が中国とされていることから、ヨーロッパをはじめとする欧米でのアジア人差別が加速していると各国のニュースで伝えられていますが、どうやらオレゴンも例外ではないようです。

私は田舎に住んでいることもあり、差別された経験はこれまでほとんどないのですが、ポートランドの中心地に住むアジア系の知人は、外を一人で出歩くのが怖くなったと語っています。

ポートランドは「Keep Portland Weird(ずっと変わり者でいよう)」というスローガンを掲げ、マイノリティを受け入れる自由な風土を売りにしてきた街です。しかし、実は以前から特定の人種・宗教に対する差別が根深く存在し、問題になっていました。数年前にはポートランド市内のバス停にいたアラブ系の少女が白人系男性に暴力をふるわれ、仲裁に入った男性が巻き込まれて死亡するという事件も起こりました。

現時点では、新型コロナウイルスの影響による過激な暴力事件は起きていませんが、このまま外出禁止による抑圧状態が続き、感染者や死亡者が増え続ければ、いつ過激な差別事件が起きてもおかしくない緊張感が漂っています。

また、自宅待機によって、家庭内暴力が増加・加速するという事態も起きています。ポートランドにある家庭内暴力シェルターが運営する24時間ホットラインには、通常よりも多くの電話がかかってきているそうです。ポートランド市警察は、市が緊急事態を宣言してから、家庭内暴力による逮捕数が27%も増加したと伝えています。

自宅待機による家庭内暴力の増加は、オレゴン州に限ったことではなく、アメリカ全土、その他の国でも起きています。オレゴン州では、24時間ホットラインの対応強化、必要な人にはシェルターの利用を勧めていますが、加害者が同じ家庭内で監視していることから、外部にアクセスし助けを求められない被害者も多くいると見ています。

これらの問題は、COVID-19が発生する以前から社会に存在していたものです。ウイルスの脅威によって人々の暮らしが変わったことであぶり出されたに過ぎません。ウイルス収束とともに、これらの問題もなかったことにしないよう、社会全体で意識して取り組んでいくべき課題だと思います。

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Photo:子供がチョークで描いた「どこだって、あなたがいる場所が私のホーム」のメッセージ

「Stay Home, Save Lives」が発令され、外出禁止になってから3週間あまり。感染者数を示すグラフの曲線が、やっとゆるやかになってきました。以前の日常が戻るのはいつになるのか、まだ見えない状況ではありますが、被害がこれ以上広がらないこと、一日も早い収束を願うばかりです。

by パケトラライター マローン恵(アメリカ・オレゴン州在住)

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