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高架と「石神井茶房 シュベール」

 今年夏、西武池袋線の石神井公園駅から大泉学園駅に向かう高架下に広場がオープンし、イベントが開催された。新しい広場には植栽スペースがあり、ポンプを押すと高架に集まった水が注ぐ。備え付けのベンチには2020年に閉園した「としまえん」のヒマラヤ杉が使用されている。
 辺りは住宅街で、赤提灯のかかる飲食街は今後も難しそうだ。近くでは「外環の2」による道路の建設が予定されているが、この先どういった姿えを見せていくのだろうか。

高架下広場のポンプとベンチ

  桜台駅ー石神井公園駅間の高架化が決定されたのは1971年。全区間完成したのは、石神井公園駅ー大泉学園駅間で上り線が高架に切り替わった2015年1月25日とされている。事業期間の長さには気も遠くなるが、工事があったのは線路だけではない。駅周辺の広い範囲を含めてのことだ。
 高架化の進捗は丹念に記録したブログがネットで読めて、大変参考になった。十年前なら自分でも覚えていそうなものだが、細部になると歯が立たない。掲載されている写真のお陰で「ああ、こんなだったよな」と振り返ることができる。
 駅の南側で工事が行われたのは、自分では震災後のことと記憶していた。店舗が次々と無くなっていったのは、実際は2010年のようだ。
 ロータリーの向こう側にあったのは、ジョナサン、アジュール、FLOWR SHOP日東、いずみ書店など。いったん移転するか、多くはそのまま閉店してしまった。同じ場所に新しい店が開けば元の店を思い出せるが、道まで変わってしまうと、名前を羅列する以外に書きようもない。
 目下の再開発で、駅前の一角は一段と欠けてしまっている。以前の街並みを思い出すにも、夢の中で景色を探すようなものだ。

2011年頃の駅付近。この派出所もすでにない

 2010年まで、南口の建物の二階には「石神井茶房 シュベール」という喫茶があった。結局入ることはなかったが、通りからよく見えたので、よく覚えている。ここは1967年に隣の大泉に「あなたの街の喫茶店」一号店を構えたチェーン店だ。「石神井茶房」と堂々とあったから、系列を持つ喫茶店だとは最近まで知らなかった。
 ホームページで店舗一覧を見ると、他に「新大久保店」「成城店」などもある。小田急線の成城学園前駅には仕事でよく行っていたが、そう言えばそのような店があったように思う。本社を石神井で構える地元企業で、サブウェイ、プロントなどのFC事業なども手がけているようだ。

現在の新大久保駅前。二階にあるのがシュベール

 大泉学園店の方は2022年にリニューアルされ、現在は「ビストロシュベール」として営業をしている。こちらも以前の店舗には行ったことがなかったけれど、喫茶メインからワインやビールを飲める店に生まれ変わった。ネットを見ると、かつてはコーヒーカップに女性の横顔が描かれていたが、これは現在のビストロでも新大久保店でも入っていなかった。何となく残念に思うが、スマートな昨今の喫茶店チェーンに比べ、ある種の落ち着きを感じるのは、長らく地元で愛されてきたからだろう。

「ビストロシュベール」でランチ

「老舗」とは、辞書的には数世代続く繁盛店のことだ。とは言え、多くのサラリーマンは雇用延長をふまえても四十年ほどで定年を迎えるわけで、五十年以上も店が続くのは、立派なことだと思う。
 シュベールのホームページには「街並みや食のスタイルは日々変わっていきますが、」とあり、「当店は創業以来変わらないシュベールの味を守り続けています。」と続く。のどかだった石神井は、あっちでもこっちでも工事があって、いくつかの景色が消失した昨今、この言葉も意味を持ってくる。

シュベール本社近くの「けんか広場」。原っぱだ


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