石神井の花だより
十月が終わりに近づいても、都内では三十度に迫る日もあれば、翌日には十度近くも気温が下がるなど気候が落ち着かない。人間の体調管理も大変だが、こうなると、野の花の咲き時を知るのが難しい。
私が参考にしているのは「都立石神井公園」の「X(旧Twitter)」だ。植物に限らず、鳥や虫、四季折々の園内情報が大変充実している。
石神井公園のA地区野球場南の敷地は、春になるとソメイヨシノが美しい。テーブルもあって、花見の時期は人気が高い。Xによると、最近の暖かさに勘違いしたのか、桜が咲いたたという。一度、飛鳥山公園に「十月桜」を見に出かけたことがあった。桜にもいろいろとあるものだと驚いたが、こちらはソメイヨシノである。
探しに行ったところ、グラウンドの際の何本かある桜の木の中で、一輪だけ見つけた。これも異常気象のひとつかもしれないが、SNSの管理者こそよく気がづいたものだとも思う。
石神井公園で私が好きな場所の一つが「野草観察園」だ。先のXでもよく取り上げられる。更新はほぼ毎日されるが、最近は咲いたばかりの「ベンケイソウ」、「アキギリ」、「ツリガネニンジン」、「フジバカマ」が紹介されていた。
野草観察園があるのはやや高台で、農園に面しているお陰で、実際よりも広く感じられるだろう。ボランティアの方の手が入っているようだが、草木を強く刈り込んでいる様子がないのが好ましい。無料だし、散策にもいいと思うけれど、最寄りの石神井公園駅からはそれなりに歩くし、時々バードウォッチャーの姿を見かけるぐらいなのはもったいない。
花は季節ごとに傾向があって、梅雨どきは梅雨どきの、夏はやっぱりヒマワリのように派手なインパクトのものが多いように思う。ひと括りには出来ないが、秋の花はなんだか花火のような、小さい花が群れをなしているようなものが多いように感じる。野草観察園以外にも、ひょうたん池の周りなど、もさもさした花が咲いている。調べると、チカラシバという植物だそうだ。
何でもデジタルにすがるのはよくないが、昔は風が止むのを待って、ゆらゆらする花を写していた。最近はスマホがあって簡単に撮影できるし、検索ですぐに花の名前が分かる。以前なら家で野草図鑑でも見なければいけなかった。
花の名前を覚えるのは楽しいが、やはり「花の命は短い」。告知を見てからしばらく経つと、萎れて痕跡のような花びらを見ることが多い。それはそれで楽しむべきかもしれないが、機を逸した感じがして、残念になる。
今年の四月、Xで竹の開花を教えてもらうこともあった。60年に一度、あるいは120年に一度しか咲かないらしい。
変わった花で、正直、花にさえ見えなかった。観察の貴重な機会ではあったが、民間伝承によると「竹の花が咲くと凶作」と言われ、不吉なことの起こる前ぶれという伝承もあるそうだ。
竹の花が咲く理由はよく分かっていない。滅多に咲かないかわりに、その後、竹林全体が枯れてしまうという。それをもって開花と凶事を紐づける必要はないだろうが、開高健の小説「パニック」では、120年ぶりに咲いたササの花がパニックの号砲となった。
いずれにせよ、60年や120年が経つ間には、石神井公園駅の駅前の、今や建設の可否で裁判まで行われている高層ビルは、とっくに役割を終えているはずだ。見ることはないだろうけれど、100メートル級の建物の撤去となれば、長く物々しい工事だろう。