石神井と電動キックボード
報道によると、石神井公園駅にも今年度中にホームドアが設置されるそうだ。今のところ何の兆しもないが、今後、駅の様子も違って見えるだろう。
変化する石神井を書き残すためにnoteを更新している。一方、半世紀以上住んでいる地元住民にとっては、昨今の駅前の再開発程度は些細な変更と感じているのかもしれない。これまで高い建物がなかった石神井に、地上33階建てのマンション「ピアレス石神井公園」が出来たのが2002年。線路の高架化の完了が2015年。石神井公園駅周辺に絞っても、住み始めた時期によって思い浮かぶ風景は違ってくる。
最近、「東京田園モダン 大正・昭和の郊外を歩く」(洋泉社)という本を読んだ。二十三区の中でも、これまで取り上げられる機会が少なかった郊外農村部の社会・文化が扱われ、面白い。
本の中に「円タク」を扱ったコラムがある。円タクは1924年に大阪で、東京では1926年に始まり、一円で旧東京市内ならどこへでも行ける料金体系だった。コラムでは、円タクを使い、自由に市内を行き来する阿倍定と愛人・石田吉蔵のことが書かれている。
その後タクシーは急増し、これまでの足であった人力車をしのぐほどになった。新しい乗り物は都市の場所と場所との距離を縮め、スピード時代の象徴として、広く歓迎されたであろうことは想像に難くない。
ところが、人気絶頂だったタクシーの数は、わずか6年でピークを迎える。戦争が激しくなり、多くの石油を軍需に使う必要があったためだ。1940年に予定されていた東京オリンピック、横浜での万国博覧会に備えて、国際都市東京の面目を保つ目的から、円タクの統制や流しのタクシーの禁止など、行政の要請があったことも原因だったそうだ。
最近都心では、電動のシェアサイクルを見かけるようになった。電動自転車そのものは以前からあるが、「LUUP」の電動キックボードのサービスは、比較的新しいのではないか。立ち姿でオフィス街などをさっそうと走っている。
LUUPは免許不要で、ヘルメットは努力義務だ。料金は税込50円で1分経過ごとに15円。たとえば10分乗ると200円かかり、サブスクや乗り放題のプランもあるらしい。
乗り降りできる「ポート」があれば、好きな場所で借りて好きな場所で返せる。ホームページのキャッチコピーには「街じゅうがスタート地点」とあり、街を活性化する次世代インフラともあった。
利用はアプリをスマホにダウンロードし、クレジットカードを登録する。電動自転車と電動キックボードが選べるけれど、電動キックボードに乗るには免許証の登録や、簡単な試験問題に通らなければいけない。鍵を開けるのも、写真を送信して返却の段取りを行うのもスマホとアプリを使い、次世代の乗り物、サービスといった感が強い。都心だけではなく、石神井でも少しずつ目だつようになっている。
電動キックボードで石神井を走ってみた。宣伝でも非難でもなく、フラットな感想として、乗りこなしには慣れが必要である。
思いのほかスピードは出る。しかし、自動車よりは遅い。スカートとサンダル姿で乗っている女性を見かけたが、車から見ると恐ろしいのではないか。追い抜くのか譲るべきか。目の前で転ばれたら大惨事だ。
立ったまま乗るので、視界は広々している。娯楽的要素があるが、店先に自由に停めていいのだろうか、そこも分かりづらい。
このあたりの中途半端さゆえか、取締り件数は増えているようだ。
残暑が続く中、今年の夏はハンディファンをよく見かけた。手軽に涼を感じ取れる道具だが、「あの頃がはしりだったね」になるのか、「結局廃れたね」になるのか。始まったシェアモビリティサービスにしても、利用が根付き、街中の景色として一般的になるのか、判断がつかない。
練馬区はJRもないし、南北を抜ける公共交通はバス頼みだし、土地はおおむねなだらかだ。個人的感想としては、絶賛再開発中の石神井公園駅南口には、何らか備えられるような気がする。