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謎の電話と母娘のブルース
固定電話のことを家電と言うようになったのは、いつ頃なんだろう。うちには一応、ファックス付きの いえでんがある。しかし、ファックスの出番は今となってはほとんどない。いえでんが鳴ることも少ない。鳴るのは大抵、廃品回収の営業か、音声システムによるアンケート調査だ。あと、高齢者の間違い電話と、謎のワンコール。夜中にワンコはやめてくれ。
☎️
久しぶりに いえでんが鳴った。
真昼間。
ちょうど私がその前に座っていたので、すぐに出た。
私「はい」
昔は電話を取ると、ひとことめに「はい、●●です」と名前を言って受けていた。しかし最近では、不審な電話がかかってくることも考えると名乗るのは危ないので、向こうが知り合いでない限りは「はい」のみで答えるようにしている。
すると、向こうは「わたくし、▼▼と申します」と名乗ってから「●●さんのお宅でしょうか」または「●●さん、いらっしゃいますか」と繋がるものだ。
そういうものだ。電話とは。
電話越しに男性の声、
ひとことめ。
「わかるか?」
??????????????
何が????????????
私の脳内(初めて聞くタイプのひとことめ――――――!
年配の方だ。もしかしたら間違い電話かもしれない。しかし、いきなり「間違ってますよ」も失礼だ。男性は「なにが間違っとるか!!」と怒鳴る可能性もある。ここは、穏やかにいこう)
~ここまで0.5秒~
私「はい」(あなたの声は聞こえていますよの意)
年配の男性「わかるか?」
私「はい」(大丈夫、わかってますよ~の意)
男性「わかるか?」
脳内(なんだろうこの人、名前を名乗らないぞ。このまま、わかるか? わかるか? だけ繰り返されても困るんじゃが――――!)
私「どちら様ですか?」
男性「%!○*X$☆※#▲?」
(ダメだ――――――――!!!!
何て言ってるか、わからん―――――――――ッ)
私「すみません、もう一度お願いします」
男性「■■町 のぉ~ ○*X$☆」
(■■町!!!! 母の実家だ!
ひとつ情報をゲットしたぞ!
ということは、知り合い? しかし、名前が分からない…)
男性「・・・・。そちらは、●●★★子さんのお宅じゃないかね?」
(母の名前だ!
これは知り合い度90%!!
多分この人、電話に出てるのが母だと勘違いしてるっぽい!
だから「わかるか?」は「ワシが誰か分かるか?」って意味ね!
違います!!
娘です!!
あなたが今 話しているのは、同居している娘ですッ!!
あぁ、もう一歩、名前さえ分かれば――――ッ!)
私「すみません。お名前を、もう一度、教えてください」
男性「■■町のぉ~ 同級生のぉ~ ○*X$☆」
(ダメだ―――――! 聞き取れない―――――ッ!
しかし、同級生という情報も掴んだ! これは、確実に母の知り合いだ。もう、母に代わってしまおう。誰さんなのかは、わからんが…)
私「代わりますので、少々お待ちください。」
男性「えっ・・・・・!?」
(私が母じゃないと、やっと気づいてくれたっぽい)
私は母に電話を代わった。男性は母の同級生で合っていたようだ。よ、よかった。変な電話じゃなくて。
私の声は電話を通すと母とそっくりだ。ちなみに妹もそっくりなので、我が家の女3人、電話越しに間違われることがしょっちゅう。その違いは、親戚でも気づけない。
☎️
母と男性の会話が終わった。
私「名前が全然聞き取れなかったんだけどさ、”なに”さんなの?」
母「ええと… 名前… 名前…