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Viva La Vida

勤務先の美容室では、営業中のBGMとしてCDを流しているが、JASRACとの契約に反しないよう、決まった数枚をヘビーローテーションしている。
今、ずっと流れているのはグラミー賞受賞作を集めたコンピレーションアルバムで、収録曲の中で洋楽をあまり聴かない私でも知っている、むしろ好きな曲が、COLD PLAYの『Viva La Vida』。
iTunesだったかのCMにも使われていたので、聞き覚えのある方も多いはずの楽曲だ。

しかしこの曲、週2日の勤務時間中、数えきれないほど聴いているはずなのに、ほぼ歌詞が聞き取れていない。
メロディは好きで、流れる度に鼻歌というかハミングで歌ってしまっていて、あまりに気になったので、Apple Musicで歌詞を見ながら聴いてみた。

スペイン語のタイトルを直訳すれば、“人生万歳”あるいは“生命万歳”。
イギリスのバンドであるCOLD PLAYがスペイン語をタイトルにしたのは、メキシコで見たフリーダ・カーロの絶筆であるスイカの絵(ヘッダー画像参照)に想を得たから。
日本語タイトルは『美しき生命』となっている。

しかし、歌詞を読むと“一度掴んだ権力を失った王様の物語”なのだ。
何故『Viva La Vida』というタイトルありきで作った曲が、没落した王様の歌なのか。

以下、歌詞(訳詞)の引用を交えつつ、物語の大筋をまとめたい(「」内引用、日本語訳には多少、自分なりの解釈を交えています)。

「一声発するだけで海が満ちる」
「賽を振る役目」
と、人々の運命も自然さえも意のまま、と、王と言うよりもはや神のような権勢を振るった一人の王。
しかし、権力を手にして間もなく、
「四方を壁に囲まれたよう」
「我が城は砂の柱、塩の柱の上に建っている」と
感じるようになる。
やがて
「窓を打ち破り、太鼓を響かせて」
王の首を落とさんとする革命家達が押し寄せる。
「一本の糸で操られた人形――王になど誰がなりたいと思うだろう」と嘆くが、その出来事を回想しているようなので、斬首は免れたらしい。
そして今は「一人で眠り、朝にはかつては自分のものであった通りを掃除する」身となっている。
そして思う
「権力の座にいる間、“心からの素直な言葉”はなかった」
「聖ぺテロは我が名を呼ばないだろう」
と。

ざっくりまとめるとこんな感じで、全く「人生万歳」とは思えぬようなストーリーだ。
何しろ比喩的表現が多く、翻訳者によっても様々な解釈ができるせいか「Viva La Vida 意味」などと検索すると、それぞれの解釈を綴った多くのブログがヒットする。
収録アルバムのジャケットがドラクロアの『民衆を導く自由の女神』の絵画なのもあり、「ルイ16世がギロチンにかけられる前に、民衆に伝えようとしたことを代弁している」という説もあるが、主人公たる王に特定のモデルはいないとのこと。

むしろ王でなくとも、一度栄華を手にした人なら、程度の差こそあれ、同じような気持ちになったことがあるのではないか。
例えば、大企業の役職にあったが、定年退職でその肩書きを失くした人。
表舞台を去った、かつての大スターなどもそうかもしれない。

ところで、キリスト教者でない私には、聖ぺテロがどんな聖人かはあまりピンとこない。
調べてみると、初代教皇であり、イエスから天国の門の鍵を託されたとある。
つまり、ぺテロに呼ばれないのは、天国に行けないということ。
天国に行けない理由も
☆王として民衆を弾圧したなど、死しても地獄に落ちるから
☆贖罪などなすべきことがあって、“まだ”天国であれ地獄であれ行けない=生きねばならないから
と、2通りの解釈ができる。
が、どちらであっても“幸福な人生”だとは思えない。
それでもなお、この歌のタイトルが『Viva La Vida』なのは何故か。

翻って、着想の元になった絵を描いたフリーダ・カーロは、最後の絵に“Viva La Vida”の文字を書き入れた8日後に47歳の若さで亡くなっている。
病気や事故の後遺症と戦い、パートナーの不実に苦しんだその生涯は、画家としての名声の代償だとしても過酷だと思う。
それでも最期に、恨み言ではなく“人生万歳”と言い遺したのは何故か。

ここに自分なりの答えを明示して、文章を締めくくろうと思ったのだが、上手くまとまらない。

地獄に落ちるような人生でも、生き地獄のような過酷な人生でも、生まれてきた生命は全てが尊く美しい。

それだけでは言葉足らずな気がするのだ。

日本語の“人生”、“生命”、両方の意味を含む、“Vida”という言葉のせいかもしれない。
これは英語の“life”も同じ。
“人生”は辛く誇れるものではなくても、“生命”は美しい。
“Vida”という言葉はその両方を含んでいるから、“Viva La Vida”を完全な日本語に訳すことはできないのかもしれない。

歌詞にも
「For some reasons I can't explain」=「上手く言えないけど」
とあるが、まさにそんな感じで、上手く説明できないけれど。

ただひとつ言えるのは、その人生が素晴らしいかどうかを決めるのは、自分自身しかないということ。
例えばフリーダの生涯があまりに過酷!と誰かが思ったとしても、フリーダ自身が“Viva”と讃えるのなら、それは“万歳”というに相応しいのだと思う。


今までそれなりにブログなどを書いてきたが、こんなに時間がかかった文章はない。
いくつか上げている“読書感想文”より、歌詞なら短いしカジュアルに書けると思っていたのに、思いがけず哲学的なテーマに行き当たってしまったせいだ。
もし良かったら、この奥深きテーマについて考えながら、聴いてみてください。


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