ナツノキセキ#14

僕は夕日に輝く優花を抱きしめながらこう言った。

「ごめんね、優花、本当にごめんね」

「なんで冬弥君が謝るの?」

「思い出したんだ。君との思い出を」

「そっか・・・思い出してくれたんだね」

そういうと優花は涙を浮かべながら続けた。

「冬弥くん、本当にごめんなさい。本当は優花のこと忘れないといけないのに

 優花がわがままいったから・・・冬弥君を苦しめてしまった」

「そんなことないよ。ごめん、全部思い出したんだ。

 僕も忘れたくなかった君のことを。あの楽しかった時間を」

「私も楽しかったんだよ。本当に冬弥くんのことが大好きだったんだよ」

「僕も大好きだったよ。都会に連れていくって約束守れなくてごめん」

「・・・うん」

「僕が守るって約束守れなくてごめん」

「・・・うん」

「・・・大切な優花のこと忘れてしまってごめん」

そういうと優花は声を上げて泣きながら言葉を絞り出した。

「優花は幸せ者、だね。ありがとう冬弥くん。

 冬弥君は私のこと覚えてなくても好きっていってくれた。思い出してからも好きって言ってくれた。

 この冬弥くんと過ごした数日間、本当に楽しかった。昔の私たちみたいだった!

 だからもうさよならしなくちゃね。これ以上は神様が許してくれないみたい」

僕が顔を上げると優花越しに夕日が透けて見えていた。

「きっと俺が覚えてないから優花に心配をかけてしまったんだよね

 だから不甲斐ない僕のために会いに来てくれたんだよね。本当にありがとう。

 なんで忘れてしまっていたんだろう。とても大切なことなのに。

 だからさよならなんていうなよ。まだ優花と一緒にいたいんだよ!」

「それはダメだよ冬弥くん。もういかなくちゃ。思い出してくれた。それだけで十分だよ。

 本当は優花はここにいたらダメなの。だけど冬弥くんがこの島に来てるって知って

 どうしても会いたいって思ったんだよ。ちゃんと私、ありがとういってない。

 だからどうしてもそれだけ伝えたかった。それが叶っただけ神様に感謝しなくちゃ

 だから、ね。これでさよならなんだよ。ほんとは私もずっと一緒にいたいよ!だけど

 それはルール違反なんだよ。おねぇさんのいうことはちゃんと聞いてよ冬弥くん」

「嫌だ!優花がわがまま言ったんだから今度は僕がわがまま言う番だろ

 だからこのまま・・・」

そう続ける僕の腕の中を優花がすり抜けた。

「気持ちはありがたいよ。だけど冬弥くんにはこれからも強く生きて欲しいの。

 私の分まで強く生きて欲しいの!だからさよならするよ?もうありがとうって伝えたよ?

 だからこれで最後なんだ。私のことが見えなくなっても優花はねずっと冬弥くんと一緒にいるよ。

 だから心配しないで。私ができなかったことを冬弥くんにやってほしい。ちゃんと幸せになってほしい」

そういう優花を追いかけて僕は再度優花を抱きしめた。

「ごめん。わがままいって。本当に辛いのは優花なのに。うん、わかった

 だから僕は約束するよ。優花のことは絶対に忘れない。もう優花に悲しい思いはさせられない

 お別れする前に大事なことを伝えさせてほしい。優花、大好きだよ。これからもずっと」

「うん、ありがとう。私も冬弥のことが大好きだよ。だから安心して。ずっと見守っているからね」

そういうと優花は僕にキスをした。その瞬間優花の姿は夕日の中へと消えてしまった。

その灯台からみた景色を僕はきっと忘れることはない。優花との思い出を糧に僕はこれから生きていく。

泣き疲れて気づいた時は太陽は沈み辺りは暗くなっていた。僕はゆっくりと家路へと着く。

僕は優花を思い出したんだ。マスターにはきちんと謝りにいかないといけない。

なぜ優花のことを話してくれなかったのか。きっと理由がある。この不思議な物語の真相を。


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