79.迷子【ショートショート】
友達とショッピングモールで特に目的もなく歩いていると、泣きそうな顔でキョロキョロしている子供に遭遇した。
迷子だ。
急ぎの用事もなかった二人は、子供の親を探すことにした。しかし、辺りに声を上げても誰も名乗り出ない。
仕方なく、少し離れたインフォメーションに呼び出し放送を頼むことにする。保護した責任を放棄するのも気分が良くないので、親が現れるまでの間二人は子供と全力で遊んであげることにした。直ぐに本気で楽しんでいた感はあったが。
両親は、十五分ほど経って現れた。どうにもだらしない格好の若い夫婦が、ひどく苛立った表情で歩いて来る。
「あんた何勝手に居なくなってんの! 動かず待ってろって言っといただろ!
お前何、人んちの子勝手に連れてってくれてんの!? 迷子助けてやったとでも言って、謝礼でもせしめようってわけ!? ふざけんなよてめぇ」
ママ、と駆け寄る我が子をいきなり怒鳴りつけ、そのままの勢いでこちらも罵倒してきた。こちらが戸惑っていると、インフォメーションのお姉さんが助け舟を出してくれる。
「お客様、落ち着いてください。お子様はまだ小さいですし、広いモールで一人きりになって不安だったと思うんです。この方達はお子様が不安にならないように、一緒に遊んで待っていてくださったんですよ。
それをそんな言い方されるのは良くないかと」
「黙れよ、部外者が口出してくんな!
あーぁ、うざ。気分悪いわ。オラ、行くよ」
言うだけ言うと、夫婦は子供の手を引いてさっさとその場を去ってしまった。
「ちょ、ちょっとお客様――」
引き留めようとするお姉さんに「大丈夫です」と声を掛ける。
ママに引き摺られ、申し訳なさそうに「ありがとー」と手を振る子供。俺は悲しそうに微笑んで、手を振り返した。
「いいのか、何も言い返さなくて」
家族が姿を消した後そう声を掛ける友達に、俺は笑顔で答えた。
「いいんだよ。子供の様子を見るに、虐待とかはなさそうだったし。
面白くて優しいお兄ちゃんが自分の親に理不尽に怒鳴り散らされて悲しむ、って状況は演出できたんだ。あの両親が、将来我が子に嫌われなければいいな」