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69.御伽話【ショートショート】

 昨日、子供たちに苛められている猫を助けた。子供たちは悪態を吐きながら走り去り、猫は振り返ることもなく逃げていった。
 こんなことで子供が簡単に反省するはずもないし、野良猫が恩を感じるなんてあるわけもない。そんなことは別に分かっている。気にしていない。

 ピンポーン。
 玄関の呼び鈴が鳴る。モニターを見ると、身なりの良い美少女が一人、立っていた。初めて見る顔だ。
 怪訝そうに玄関のドアを開けると、少女はたどたどしく話し掛けてきた。
「あの、初めまして。突然お尋ねしてしまい申し訳ございません。
 今日お尋ねしたのは、あの、この子を助けていただいたお礼を申し上げたくて」
 そう言う彼女の足元には、ペット用のキャリーバッグがあった。少女がバッグを開けると、中から昨日の猫がおずおずと出てくる。
 しかし僕は、怪訝な顔を崩さない。
「そんなつもりはなかったんだけど。それより、なんで助けたことを知ってるの?それに、どうやって僕の家を知ったの?」
 当然の疑問に、彼女から帰ってきた答えは実におかしなものだった。
「この子から直接聞いたんです。あの後コッソリあなたの後を付けたらしくて。
 ほら、あなたからもちゃんとお礼を言いなさいな」
 ちょっとおかしな娘なんだろうか。そんなことを思いながら猫をよく見る。どことなく恥ずかしそうにしているような猫には、尻尾が二本あった。もしかして、猫又ってやつなのか?
 驚いていると、突然猫が煙に包まれ、中から新たな美少女が現れた!
「昨日はありがとニャ。恥ずかしくなって逃げちゃってごめんなさい。優しいお兄さんにお礼をさせてほしいニャ」

 そんな御伽話のような展開を妄想して楽しんでいる。もちろんそんなことが起きるはずもないし、期待もしていない。
 心の中でニヤニヤしながら、今日も街を散歩する。

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