62.暗号【ショートショート】
足の踏み場もないほどに散らかった紙には、見たこともない記号達の関係がメモされていた。
男はある高名な考古学者が発見した、小冊子が作れるほどの暗号文に挑み続けている。
世界中の暗号パターンを当て嵌めても、古代の文字列を組み替えてみても一向に解が得られない日々だった。何ヶ月も籠りっぱなしで、家族にもとうに愛想を尽かされていた。
ある日突然、執念が実を結ぶ。無数の記号を単語に当て嵌めて、遂にその暗号文が古代王朝の隠し財産の隠し場所だと読み解いたのだ。
男はすぐにパトロンを探し出し、隠し場所だと読み解いた地を掘り起こした。
「出た、出たぞー! 古代王朝の王廟だー! 財宝も大量にある! 富も名誉も手に入れたんだー!」
目的地周辺を掘り始めて一週間を過ぎた時、遂に財宝は現れた。それはこの国の歴史を覆すような大発見だった。
狂喜乱舞の発掘チーム。その時、ラジオからニュースが流れてきた。暗号文を発見した高名な考古学者の記者会見だった。
『あの暗号文なのですが、あれは私が趣味で暗号っぽい記号の羅列を適当に並べたものなんです。長年書き溜めたそれを、冗談で同僚に古代の暗号文だと見せただけだったんです。まさか真に受けると思わず、冗談だと明かす間もなく学会で発表されてしまって……。大事になってしまって今まで言い出せなかったのです。大変申し訳ありませんでした』