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77.トラウマ【ショートショート】

「実は、男性にトラウマがあって」
 彼女が伏し目がちにそう言うと、その場の皆が押し黙った。
 とある商社の食堂。同僚たちの誘いを受けた彼女は、申し訳なさそうに告げる。
「仕事にも支障が出るし、克服しないとって思ってはいるんだけど。
 だから今回は、ごめんなさい」
「そっか…。じゃあ、若手芸人なんてガツガツした野郎たちとの合コンなんて無理だよね。面白い奴らなんだけど。
 じゃあさ、友達に女性の扱いを心得てる紳士な奴もいるから、必要な時は声掛けてよ。優しい奴から慣らしていこ。じゃあね」
 別部署の同僚たちは誘いを諦めて、別の席に去っていった。丁度そこに、同部署の後輩がやって来て、向かいの席に座る。
「先輩、男性恐怖症でしたっけ? いつも男性社員や課長を恐れさせてるようですけど」
 ニヤニヤと話し掛けてくる後輩に、先輩の態度が豹変する。
「うっさいわね、いいのよ。あの娘、芸人とか自称アーティストとかにばっかり惹かれる夢見がちな奴なんだから。合コンなんて、金持ってない男しか集めないのよ。無理無理。
 同じ日に友達の女子アナがセッティングした合コンあるし、そっち行くに決まってんじゃん。ああ言って断っとけば、もう誘わないでしょうし」

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