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49.花瓶【ショートショート】

「花瓶って良いよな。花を目立たせるための脇役として作られてるとは思えない手間が掛かってる。それなのに、お花があってこその私達です、みたいな奥ゆかしさを感じるんだよ」
 花瓶がなぜ良い物なのかを語る私は、自分でも判るくらい熱を帯びていた。
「しかも、大抵の花瓶は主役の花よりよっぽど高価なんだよ。一輪挿しなら下手すれば数百倍する場合もある。それでもあくまで主役を輝かせるための飾りを演じているんだ」
 何故こんなに熱くなっているのか、実のところ自分でもよく解らなくなっていた。ただ、美しい花瓶を見ていたら語りたくなってしまったのだ。
「でも、やっぱり花瓶だけじゃ駄目なんだよ。季節や場所に合わせた花が飾られてこそ、花瓶として完成するものだと思ってる。花が刺さっていない花瓶なんて、いくら高い美術品でも価値なんて感じないね。
 そう、だからつまり何を言いたいかってゆうと」
 私は大仰に友人に向き直って、宣言した。
「一個に付き百万円以上するからって、こんなショーケースに飾られた花瓶は認めないってこと!」
 その時に見た友人の顔には、明らかに「めんどくさ…」と書かれていた。

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