27.ホットミルク【ショートショート】
カフェオレが好きで、独り暮らしを始めた頃はほぼ毎日作って飲んでいた。と言っても凝ったものではなく、濃いめのインスタントコーヒーにレンジで温めた牛乳を混ぜただけの簡単なものだ。夕食後に飲む一杯が、一日の終わりを感じさせてくれた。
しかし時々、コーヒーを淹れるためのお湯を沸かすのすら億劫になる日もあった。そんな日はスプーン一杯の砂糖を入れたホットミルクで済ませていた。疲労と苛立ちに染まった体に、甘いホットミルクが落ち着きを取り戻させてくれる。子供の頃の思い出がそうさせてくれるのだろうか。
そんなことを思い出しながら、牛乳をパックからマグカップに注いだ。随分久しぶりだった。そもそも牛乳を買ったのもいつぶりだっただろうか。
ホットミルクが乾いた体をじわり、と温めてくれた。どこにしまったか分からなくなった砂糖は入れてないので甘くなかったが、染みた気はした。
何を目的に独り暮らしを始めたのだったか、思い出せない。いや、思い出したくないだけだ。
尽きない溜息が、ホットミルクを急速に冷ます。
棚に仕舞ったインスタントコーヒーは、すっかり湿気って固まっていた。