83.遺書【ショートショート】
ある男が亡くなった。
彼は、名のある資産家だった。四人の子供達を厳しく育てたが、病床に伏せる中、その教育方針が失敗だったと思い知りながらすごした。
葬儀は粛々と行われた。喪主は長男が務めたが、段取りは全て、死期を悟っていた資産家が用意していた。長男は葬儀屋の指示通りにこなしただけで済んだ。
式もつつがなく終わり、兄弟達は早速財産分与について揉めていた。等分しても億単位の遺産を、少しでも多く獲ろうと必死だった。
そんな場に、弁護士を名乗る者が現れる。彼は資産家の遺書を預かっていた。兄弟達は一様に余計な物を、と思ったが、仕方なく内容を聴くことにする。
遺書には、先に逝った妻への想いや、第一子が誕生した時の感動、独自に行ってきた支援活動やボランティア活動とその時の子供達の笑顔に感動した話などがつらつらと書かれていた。しかし兄弟はまるで心動かず、そんなのいいからさっさと遺産の話だけ読んでよ、と急かす。
遺書の最後に差し掛かり、いよいよ遺産について語られる。
『――こんな私の想いを綴っても、子供達はまるで意にも介さないだろうな。
遺産についてだが、死ぬ前に財産は全て支援団体に寄付することにする。私の口座は全くの空になっているはずだ。
これを聞いた子供達の怒り狂う顔を想像しながら、安らかに逝くことにするよ。
ざまあみろ』