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katiko
43.はじめまして【ショートショート】
「はじめまして。今日から使用人を務めます。どうぞよろしくお願いします」
「はじめまして。よろしくね」
お嬢様が笑顔で答えてくださる。何回も繰り返した、あいさつの会話。
彼女は前日の出来事を何も覚えていなかった。そのことに慣れてしまった僕は、手早く仕事に取り掛かる。
さっさと使用人の仕事を終わらせて、やることをやらなくては。
「はじめまして。今日から使用人を務めます。どうぞよろしくお願いします」
「はじめまして。よろしくね」
いつも通りの笑顔。何十回も繰り返したあいさつ。
やはり彼女は、前日のことが何も分からない。色々試したが、変わることはなかった。
彼女の無垢な笑顔を壊したくなった僕は、突然彼女の肩を強引に掴み、無理矢理唇を奪う。
僕を突き飛ばした彼女の顔が恐怖と絶望に歪むのを見て、自分の歪んだ感情が目覚めるのを感じた。これならきっと、憶えてもらえる。
「はじめまして。今日から使用人を務めます。どうぞよろしくお願いします」
「はじめまして。よろしくね」
お嬢様の笑顔。何百回目か判らないあいさつ。
いつもの仕事をさっと終えた後、彼女を絞め殺した僕はビルの屋上に向かった。
縁から迷いなく一歩踏み出す。これで終われる安堵を抱いて。
「はじめまして。今日から使用人を務めます。どうぞよろしくお願いします」
「はじめまして。よろしくね」
笑顔。何千回目だろう。
何をやってもこの一日のタイムループから抜け出せないでいる。何をやっても。
次は何をしてやろう。