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土下座じゃすまない博士後期課程受験 「入学準備」

博士後期課程に合格してしまった。今はそんな感慨をもっている。本当に「してしまった」と。

合格後のことをあまり切実には感じていなかったため、わたしは合格後に周囲で起こった動きについていけないでいる。

合格前は、もし合格したら今の住居地から大学へ通うか、頑張っても大学の近くに「単身赴任」するつもりでいた。

ところが電車の時刻表をよく調べてみると通いは全く現実的ではない。ローカル線の本数の少なさはありえないほどなのだ。

妻はわたしの「単身赴任計画」を相手にせず、老母を残して大学のある街へ引っ越すことを主張した。

その結果、超多忙な日々が始まった。

物件探しから始まり、購入、リフォームの段取り、等々やることが山ほどあるのだ。家族三人、まだ3歳の娘の保育園のことまで考えねばならない。

博士後期課程合格を機に一気に何かが動きだした。

わたしはわたしで、大学生活を実りあるものにするために今のうちに研究についての考えを深めておきたい。読みたい論文がこれでもかというくらいある。

着手する前はあまり知らなかったのだが、わたしが研究しようとする音声合成の分野は日本に優秀な研究者が多くいる。

わたし自身は修士課程で専攻した信号処理の延長線上で考えていたが、音声合成は今はやりのディープ・ラーニングを武器にしてめざましい発展を遂げており、わたしの30年も前の大学院での知識など役に立たない。

もっと勉強しないと、ついていけないかもしれない。そんな危惧をよそに、妻は引越し計画にわたしを巻き込んで突進している。妻の行動力はいつもながら感心してしまうくらいすごい。

さらに考えれば、わたしには博士課程終了後の展望がほとんどない。通常というかそれなりに若い人であれば、博士号取得の後は研究者としてキャリアを積む。わたしに研究者の道は99.999%ない。100%と言わないのは人生なにがあるか分からないからであり、まあもしかしたら奇跡ということもあるかもしれないと思うからであり、自分の可能性を信じたい気持ちも少しはあるからだ。

わたしにとって、博士号取得がある種の行き止まりであるのは辛い。この歳になってやっとこれはと思えるテーマを思いついたのだ。できるだけ長くその分野に携わっていたい気持ちが強い。

独立研究者としてやっていけたらそれがベストなのだが、どんなものか。

あれこれ考えながら、入学前のおそらく最も希望に満ちた時間を過ごしている。

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