Tinderで出会ったフランス人。

忘れられない男がいる。

昨年の7月、とある広告代理店に転職した私は鬱病を発症した。

ダメ出しの嵐の中、毎日約10時間休みなくライティングをさせられ、他の社員も皆忙しさのあまり心に余裕が無く社内の雰囲気はサイアク。またその会社は『コレって詐欺スレスレなんじゃないの?』と思われる事業を展開していることも後に知り、精神的な疲労と罪悪感が私の心を次第に蝕んでいった。

毎日、謎の息苦しさを感じ、自然と涙が溢れるようになり、暗い気持ちが拭えない。この時はまだわからなかったが、後日心療内科に通い、正式に鬱病と判断された。

入社から3ヶ月が経ち、いよいよ試用期間が終わろうとしている頃、私は毎日『この世から消えてしまいたい』と思うようになった。今思えば『向いてなかった☆(´◉◞౪◟◉)てへ』とスパッと会社を去ればよかったものの、その頃の私は正常な判断ができないでいた。

死ぬ前に誰かの温もりを感じたい

友だちがいない私は、Tinderに登録。そこで白濱亜嵐似の男性とマッチした

すぐに彼からメッセージが送られてきたが、それは英語。話を聞くと、彼は両親がラオス出身で見た目はアジア人だが、フランス生まれのフランス育ち。生粋のフランス人ということだった。

『元気?』と送ってきた彼。私は『死にたいの』と返信した。

メンヘラ感丸出しの返信。普通の男ならさっさと「コイツは危ない」と判断し、私をブロックするだろう。

だが彼は『電話で話そう』とすぐに私とLINEを交換。電話の向こうで泣いている私に向かって、一生懸命に話をしてくれた。そしてこの時に彼は今、日本に旅行中で、たまたま私とマッチしたことも知った。

『大丈夫?』次の日に彼から連絡があり、『一人で日本に来ているから寂しい。良かったら今日、一緒にディナーしない?』とごはんに誘われた。英語のスキルも乏しく、ましてや昨日知り合ったばかりの外国人。ためらったが、昨夜私を励ましてくれた恩もあり、また『どうせ死ぬんだから会おう』と彼に会うことを決意した。

新宿で彼と待ち合わせし、焼き肉を食べている間『自殺なんか考えるな。周りの人間のことなんて気にしなくて良いんだ。Don't think too much』と、終始彼は私を激励し、またとても紳士的に接してくれた。ディナー後、彼に映画に誘われたが、『もう帰る』というとあっさり承諾してくれた。

フランス人はどこまでも個人主義で、他人に冷たいというステレオタイプがあった私。だが、彼の丁寧で親切な対応に驚いたのを今でもよく覚えている。後にじゃんぽ~る西さんのフランス滞在エッセイコミックを読んで『フランス人は身近な人に対しては驚くほど親切』というふうに触れられており、納得した。

彼と会い、気持ちに整理がついた私は、翌日会社に退職の意志を告げたのである。

その彼とはもう連絡を取っていない。私は『死んだおじいちゃんが孫のピンチを察して、姿を変えて天国から励ましに来てくれたのかも(私の祖父は若くして亡くなった。そしてとても良い男だった)』と勝手に解釈している。

その後に転職した今の会社でも人間関係の難しさを感じることがあるが、鬱病の症状が出始めると彼の教えである『Don't think too much』を心の中で唱え、なんとか乗り越えている。

Tinderは『時間の無駄』だと思うことが大半であるが、こういった後に忘れられない男と出会う可能性もあるため、なかなか止められない。

(良い男だったなー。記念に一晩過ごすべきだったか。もったいないことしたな)

エロブログを始め、冷静にあの時のことを思い出し、ゲスな妄想に浸っている今である。


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