月明かりは知っている

「「かんぱーーい!!!」」

「佐伯さん、お疲れ様でした!」

「いやぁすいません僕なんかのために。
 こんな盛大な。」

「佐伯さんほんとに帰っちゃうんですか?!
 俺寂しいです!!!」

「離れろ馬渕(笑)」

「でも佐伯さんいなくなるの
 本当に寂しいです」

「ねぇー、5年とかあっという間だった」

「5年間の単身赴任でみんなに気に入られたら
 永住できる。みたいなシステム
 ないんですかねー?」

「ないだろ(笑)むしろ帰ったら
 出世だもんな?」

「いやー、勘弁してくださいよ。
 あっ栗山さんも。お世話になりました」

「いえいえ!こちらこそです!
 アメリカ帰っても頑張ってください!」

「ありがとう」

「よーーし!今日は飲むぞー!!
 俺の奢りだー!!」

「さすが課長ー!ごちでーす!!」

「馬渕お前は少し遠慮しろ!」

「えー!なんですかー!!」

みんなの笑い声が響く。
5年間共に頑張ってきた仲間の門出を祝う日。


「じゃお疲れ様でしたー!
 みなさんお気をつけてー!」

「え!もぉ帰るんですか?!カラオケ
 行きましょうよカラオケ!」

「俺は部屋の片付けもあるし帰ります!
 みなさん今日は本当に
 ありがとうございました!
 そしてお世話になりました!」

「こちらこそ!ありがとうございました!」

「じゃ僕はこれで。
 あっ栗山さんもこっちですよね?
 途中まで一緒にどうですか?」

「あっじゃあ一緒に。お疲れ様でした。」

振り返って歩く後ろから
カラオケに誘う大きな声と
帰路につく足音が聞こえた。



.
「公園、寄ってく?」

「いいねぇ」


ベンチに座り缶ビールで乾杯する。

「「おつかれっ」」

さっきまでの店内とは打って変わって
静かな公園のベンチ。

「はぁー、ちょっと飲みすぎたなぁ」

「めっちゃ飲まされてたもんね(笑)」

「梨花が助けてくれないからだよ〜」

「無理だって(笑)みんな私たちのこと
 知らないし。」

「んーまぁね?
 あー、最近寒くなってきたなー。」

「もぅ11月だしねぇ」

「早いなぁ。もう5年もたつのか。」

「よくここで反省会したよね」

「したした。懐かしいなぁ」

「明日から慎吾がいないとか、
 なんか信じられないな」

「そうだな、、。」

沈黙が続きビールを口に運ぶけど
とっくに空っぽになっていた。


「もぅ引越しの準備、した?」

「え?あっ、うん。あと少し。」

「そっか、、。」

ちらっと彼女のほうを見ると
変わらない綺麗な横顔で
少し俯いていた。
なにか言いたそうな、でも言えない
なんともいえない表情だった。

「あのさ、梨花。俺やっぱり

「ダメだよ。ダメ。絶対無理だもん。」

「え?」

「アメリカと日本だよ?遠すぎるよ。」

心の中を見透かされていた。
俺がなにを言いたいか彼女にはわかっていた。

「それに最初からアメリカに帰ることは
 決まってたことだし。
 このままここで綺麗にお別れするのが
 1番いいと思う」

笑顔で言った彼女の声は震えていた。

「私もさ、最初はもっとドライに
 付き合えると思ったんだよね。
 期限付きとかなんかドラマみたいだし(笑)
 でも気づいたらさ、このまま時間が
 止まればいいのにって何度も思ってた。」

こちらを向いて話さないのは
きっとなにかを隠すため。

「でも仕方ないよ。現実は現実だし。
 綺麗な思い出のままお別れしよ」

「そう、、だな。」

彼女の目が少しピクッと動いた。

「今までありがとう!
 本当に大好きだったよ」

「、、俺も。」

抱きしめる代わりに握手をした。

「もぉー!そんな顔しない!
 明日帰るんでしょ?!
 朝ちゃんと起きなよ!!」

「わかってるよ、、」

最後の最後まで俺の心配をしてくれる
とても優しくてかわいくて
あたたかくて大好きだった彼女と
笑顔でさよならをした。

本当は今すぐ抱きしめて一緒にいようと
伝えたかったけど、きっと彼女には
彼女なりの叶えたい人生がある。

だから俺はこれからも
遠く離れた場所からそっと
応援することにした。

思い出と共に、俺も自分の人生に帰るかな、


🎧You Go Your Way
  CHEMISTRY

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