跳べねえ馬もいる
ユニコーンSを圧勝したカフェファラオは次元が違う強さだった。
ヒヤシンスSの時点で体幹の強さを「6」とした馬だ。この強さというのはパドック映像で前後の馬と比べてもらうとわかると思う。他の馬と違って背中とトモを繋ぐ腰の「捻じれ」が全く感じられない。体幹の強さを「6」としたけれど、この強さは「7」って表現しても良いくらいの強さだと思う。安田記念のパドックで見比べたとしても、ここまでの強さを感じる馬はいない。そのくらいの逸材だと思う。
レースは前半34.2秒のHペースで流れたが、先団の外を楽に追走し、坂上では後続を突き放して圧勝した。これが体幹の弱い先行馬だとこのHペースに耐えられない。陸上選手のフォームでいうと、バテた選手は腰を高い位置でキープできなくなってしまい、ペースを維持することは不可能になる。「キツいシーンでも踏ん張れる」というのが体幹が強い馬の武器でもある。
ただし「体幹が強い馬は無敵だ」と思われたら誤解だ。
高校時代に1年だけ長距離の陸上選手だった自分は5000mで16分程度の凡庸な選手だった。あの後、大学までトレーニングを続け、体幹を鍛えに鍛えたとして箱根駅伝に出るくらいの選手になれたか?と言われると、まあ無理だったと思う。1㎞3分ペースを余裕をもって走れるだけのスピードと最大酸素摂取量の高さには恵まれていなかったから、続けていたとしても、せいぜい15分台がやっとだったろう。競馬でいえば2勝クラスの馬みたいなもんか。GⅢどころかOPだってほど遠い。今の中長距離界で日本選手がアフリカ勢に全く歯が立たないのも一緒だ。体幹がどれだけ強くなっても先天的なスピード以上の時計では走れないのである。
良い例が6/20の東京7Rに出走したカナロアガールだ。ロードカナロア産駒の牝馬で体幹は「6」の4歳馬だ。脚が長くて馬体はしっかりしているが、過去16戦して1勝。これがこの馬の現実である。同じ体幹「6」でも13戦して9勝を挙げているアーモンドアイとは偉い違いだが、持って生まれたスピードの違いは努力で埋められるようなものではない。
ああぁ!クソ!なんでだよ!
なんでオレじゃなくておめえなんだよ!
オレは努力したよ お前の10倍 100倍 いや1万倍努力したよ!
なのに、なんでお前なんだよ!
それはアクマに卓球の才能がないからだよ。単純にそれだけのことだよ。大声で騒ぐほどのことじゃない。
以前、Paddock Labの分析記事でも書いたが、映画「ピンポン」の中で、幼馴染のスマイルと対戦し己の才能の無さに絶望したアクマの叫びである。
「飛べねえ鳥もいるってこった」卓球を諦めたアクマの言葉だ。
もちろん、才能があるからといって順調にトレーニングを積み立てられなければ強くなれない。アーモンドアイも新馬戦では負けていて、化けたのは2戦目以降だ。モーリス産駒の新馬戦での絶望感を感じるのは馬体は鍛えられているのにスピードがない馬ばかりだからである。先天的なスピードはあるのに筋肉が足りない馬はトレーニングで鍛えて才能を開花することはできても、馬体は完成されているのにスピードがない馬を速く走るようにはできない。
体幹「5」や「6」の馬だからといって、その馬がどこまでも強くなるということではない。といよりも、体幹が強い馬がそのクラスをなかなか勝ち上がれなくなったら頭打ちの兆候だと考えた方がいい。競馬はどこかで頭打ちになる馬の方が多いからだ。それはカナロアガールのように、その馬の過去歴を見ると理解できたりするものである。体幹は鍛えられても、持っているスピード以上のことはできない。これは人も馬も一緒だ。
OP重賞やGⅠだって腰が甘く、体幹「3」の馬もいる。その馬たちはスピードだったり、高い心肺能力を持っていたりしたから勝ち上がっていけたのだ。その話はまた後日、することにしようと思う。
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