【前編】再エネによる「人おこし」─パシフィコ・エナジーが目指す持続可能な地域共生
シェアハウスで「人おこし」を。山村エンタープライズが取り組む地域共生
岡山空港から車で約1時間半。周りを大自然に囲まれた美作市の小高い丘の上に、1軒の建物があります。NPO法人 山村エンタープライズが運営する若者支援シェアハウス「人おこし」。現代社会に生きづらさを抱える若者たちにリフレッシュできる場を提供し、彼らの社会的自立と就労を促すサポートを行なっている施設です。
2016年の春に運営を開始した「人おこし」。事の始まりは、2012年の秋までさかのぼります。地域おこし協力隊として岡山県にきた能登さんと他のメンバー2人が、岡山県の山奥に位置する限界集落の空き家を活用して、現在のシェアハウス事業のもととなる「山村シェアハウス」を立ち上げたことがきっかけでした。
当時はまだ、田舎でのシェアハウス運営の事例が少なかったこともあり、山村シェアハウスは地元の広報誌などに取り上げられて設立後すぐから世間の注目を集めました。入居者は入れ替わり立ち替わりで、常に7、8人がいたと言います。
「世間から関心を向けられた理由は、私たちの活動が現代社会の生きづらさとリンクしていたからだと思います。都会で生きるのに疲れた人が、田舎に興味を持つという感じで。ひきこもりとまではいかなくても、数か月休職して世間と少し距離ができてしまった人などが親御さんの紹介でやってくるケースも多かったですね」
もともとは、地域おこしの活動に従事していた能登さんたち。自分たちが運営するシェアハウスで過ごす人々が元気になって自立していく姿を見ているうちに、地域に来た人が元気になる「人おこし」の必要性を感じ、このような支援を主軸に活動することを決めました。
こうして2016年に立ち上がったのが、山村エンタープライズと若者支援シェアハウス「人おこし」。入居者への理解を深め、彼ら/彼女らが安心して暮らせるよう、発達障害や精神疾患などを専門とする医療スタッフ・カウンセラーの体制を整えて再スタートしました。
「私自身、これまでの人生でいろいろな仕事や活動をしてきましたが、その中で若者を支援する仕事が自分的にすごくしっくりきた感じですね。ここで暮らしていると不思議と心と身体が満たされていくみたいで、都会から来た子が日焼けをしてどんどんはつらつとしていくこともあります。そんなふうに、みんなが自信を取り戻していく様子を見るとうれしくなりますね」
入居者への個別の面談をもとに、毎月、能登さんが保護者の方々へ送っているメールには、毎回長文の返信が届くとのこと。
「『成長している様子が伺えます。ありがとうございます』といった親御さんからのお礼が届くときもやりがいを感じる瞬間です。自分たちの活動の意義が感じられるので本当にうれしいですね」
共創のきっかけと、「よそ者」同士だからこそ感じたシンパシー
若者の自立と就労支援といった地域共生に力を入れている山村エンタープライズ。しかし、活動が地元の人に受け入れられるまでには、さまざまな苦労がありました。
「立ち上げ当初は特に大変でした。当時、ひきこもりは犯罪者の特徴として報道されることも多く、ひきこもりの人への社会的理解は現在と比べて乏しかったと思います。だから、『そんな危ない若者ばかりを集めて何をやろうとしているんだ』と色眼鏡で見られることもあったんです」
地元の人々からの理解を得るため、就労活動中の様子を公開したり、交流イベントを開いたりと、草の根的に地道な取り組みを続けてきた山村エンタープライズ。その姿は、発電所建設のため外部から来た「よそ者」として見られることの多いパシフィコ・エナジーの事業とも通ずる部分があります。
そんな山村エンタープライズの、社会課題への意識の高さや地域に根ざした活動などに共鳴し、パシフィコ・エナジーは2017年以降「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)」という形で、毎年山村エンタープライズに寄付を行なっており、これがパシフィコ・エナジーと山村エンタープライズの交流の始まりにもなりました。
それまで、パシフィコ・エナジーの名前を聞いたこともなかったと言う能登さん。お互いの関係が深まると同時に、「太陽光発電」に対するイメージも変わっていったと言います。
「再エネ自体についての興味は、一般的な知識レベルですけどもともとありました。東日本大震災以降、原発の安全性などが気になっていたこともあり、再エネ全般には良い印象を持っていましたが、太陽光発電に対しては大規模に山を切り開くこともあるらしい、というややネガティブなイメージもどこか頭の片隅にありました」
交流が始まった2017年からしばらくの間は、メールや書面でのやりとりが多かった山村エンタープライズとパシフィコ・エナジー。能登さんとパシフィコ・エナジーの担当者とが対面で直接会ったのは、やりとりを始めて2、3年ほどが経過してから。そのときの印象を能登さんは強く覚えていると言います。
「そのときのご挨拶の場で、あらためてパシフィコさんの事業内容や作東太陽光発電所の設立の経緯、調査報告などについて担当の方からお話しいただきました。そこでパシフィコさんのスタンスや事業への熱意、ゴルフ場の跡地を再利用していることなどを知って、太陽光発電へのネガティブなイメージは払拭されましたね。そこまで地域や環境に配慮しているのかと驚きましたし、こんな再エネ事業者もいるんだな、と初めて知って感嘆しました」
その後、パシフィコ・エナジーの地域共生にかける想いに呼応するように、能登さんも「人おこし」の取り組みや、若者の自立と就労支援の実態について説明。両者の価値観や、目指す方向性が重なって見えた瞬間となりました。
こうした経緯で、地域共生のためにさらに力を合わせてできることはないかと模索し、2022年6月に作東太陽光発電所で行われた草刈り活動にたどり着きます。これは、山村エンタープライズで生活する若者が、就労支援の一環として、ラジコンを操作しながら発電所の草刈りをするという初めての取り組みでした。
「自立」のカギは、シェアハウス内に散りばめられた自由と自主性
山村エンタープライズの目的は若者たちの「自立」を支援すること。そのためにも、「ルールは最小限」です。たとえば、朝起きる時間から食事のメニューやタイミング、洗濯の頻度に至るまで、可能な限り入居者たちの自主性が尊重されています。
ルールは最小限である一方、その自由の裏側には責任があり、「自分の意思で決める」ことの積み重ねが入居者の自信につながっていると能登さんは言います。
「ルールでガチガチに縛らないことは大事にしています。僕らに向いているのは『自由』だと思いますし、この事業も完全に自主的なものなので」
シェアハウス内には入居者たちがDIYで作ったものもたくさんあり、DIY好きのスタッフ主導で、ちょっとした家具の製作や修理は自分たちで行います。中には、趣味の一環として薪割りをしたり、わらじを編んだりする人もいるそうです。
シェアハウスでの生活を通じて、入居者たちは自立に向けた準備を整えていきます。日中は就労支援の一環で、地元企業や農家へアルバイトに行く人もいますが、そのペースや頻度は入居者に任せられていて、予定がないときは、みんな思い思いの時間を過ごしています。
ちょうどアルバイトが休みで、シェアハウスのリビングでゲームを楽しんでいた青年に話を聞くと「ここでの暮らしは落ち着きます。いろんなことを自分のペースで決められるので、すごくありがたいです」と笑顔で答えてくれました。
ただ居心地の良さを提供するだけではなく、いずれは卒業して自立できるよう、入居者の進路についても真剣に考えている能登さんたちスタッフのみなさん。シェアハウス卒業後も社会から孤立してしまわないよう、しっかりケアすることも心がけています。社会に馴染めず、つらい思いをしている人たちの未来にまで目を向ける。事業者としての責務を全うするその姿勢からは、今を生きる若者たちへのリスペクトも垣間見えました。
若者たちの就労支援には、地域の人々や企業さまの協力が欠かせないと語る能登さん。後編の記事ではパシフィコ・エナジーが協力した就労支援の草刈り活動の様子や、山村エンタープライズとパシフィコ・エナジーが考える理想的な地域共生のあり方などについてお伝えします。
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