マッチングアプリをやりこんでいた時の話③初めての食事編

前回までのあらすじ
マッチングアプリを始めた私は星野源のような雰囲気を漂わせる後ろ姿をプロフィールにしている大学院生と会うことになったが、実際の顔は藤井隆だった。色々あって私は集合時から汗だくだった。詳しくはこちらから⤵︎


隆が予約してくれていたのは、カウンターと高めの小さいテーブルが数席のこぢんまりとしたスパニッシュバルだった。

当時食品系の営業をしていた私は、お店の真正面に自社の得意先があったことに気を取られ
送検前の被疑者のように顔を隠して入店したため、
お店の人は一瞬有名人でも出迎えるような顔をしていた。申し訳ない。

着席し、初めてマトモに隆と対面すると、突如さっきとは違うタイプの汗が滴り落ちてきた。
緊張だ。

商談でも汗かいたことないのに…

そういえば、就活の面接に遅刻しそうになった時、
走ってなんとか間に合ったけど、
その後ずっと汗が引くことはなく、面接中も膝の上に垂れるほどの汗をかき続けていたことがあった。

人生24年目にして新たな発見。

💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦
遅刻寸前+ダッシュ+発汗+初対面+重要めな面談
=無限発生的滝汗(インフィニティスウェット)
💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦💦

脱げるものは全て脱いだものの、汗腺はまだまだ稼働を続けたそうにしている。
隆はメニューを見て何やらワインの名前をぶつぶつと読み上げ悩ましそうな様子。

「ゴメン、先お手洗い行っていい?!」
たまらずトイレに駆け込み、ペーパータオルで頭から首筋までとんとんとんとん叩き、水分を必死に吸収した。
冷たい水で手首や首筋を冷やし、なんとか体温を下げる。一旦は引いた汗も、席に戻ればどうせすぐ噴き出してくるに違いない…

本心は一生トイレから出ないか今すぐ飛び出して行く(店から、というかこの地域から)かしたくてたまらなかったが、ここで逃げたら負けだ。一生汗で婚期を流すつもりか。
逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ…

時間にして1分ほどだったと思うが、覚悟を決めた私はゆっくりと、体温を上げないよう、トイレから出た。
そしてエレガントに座り直す。

「ワイン、決まりました?」
いつの間にか置かれていた氷水で口内を冷やしつつ、未だメニューを睨んでいる隆に聞いてみた。
(なお、ここまでで会話らしい会話はしていない)

「んー、やっぱ白にしよっ!歯が赤くなると嫌だし」
白ワインを選ぶ際、あまり聞かない理由だ。まあいいか。
私はこれ、と赤ワインの手頃なのを指さした。

ドリンクを注文してから待つ間、フードメニューを手に取り再び睨みつけ始める隆。
あれ、そういえばさっきから、メニューを独占されているような…
何がいいか聞いては来るものの、完全に向きが逆な上、よくわからないカタカナごはんが並んでいるので解読が難しい。

あ、でもサイゼの間違い探しで私もたまにやってるかもな…
気をつけよう。

もちろんこの間も汗が止まってくれたわけではない。おしぼりで額を押さえながら、心ここに在らずといった感じで返事をしていた。

結局ほとんどが隆チョイスとなったが、私は特に食べられないものはないし、それどころか大半の食べ物は好きなので、食事自体は大変満足した。
ここで「自分に選択権がない」という違和感を無視したことが、のちのち効いてくるのだが…それはまた。

ここでついに恐れていたことが起きた。
メニューと睨めっこをやめた隆が、私の目を見て話すようになってしまったのだ。

焦ってさらに肌がしっとりしてきた。
放っておくと垂れるので、おしぼりでトントンするのをやめられない。
耐えきれなくなって自分から言った。

「ごめんなさい、いつもはこんなことないんですけど。なんか今日走ったのと緊張で汗が止まらなくなってしまって」

すると隆は
「あー、だよね?ずっと思ってたけど言っちゃダメかなって(笑)ねぇそれ商談とか大丈夫なんですか?(笑)」

私は笑うと目がなくなるタイプで、顔だけ見たらおっとりした印象を受けると言われることがある。
実際はもちろんおっとりのおの字もない。
どちらかというとオットセイだ。私が本当にオットセイだったなら、今ごろ尾びれを床にペチペチと叩きつけながら、オウ!オウ!と咆哮を轟かせていたに違いない。

残念ながらオットセイではなく怒りん坊人間な私は、平静を装い、少々青筋など浮かんでいたかもしれないが、にこやかに会話を続けた。

「商談は時間に余裕持ってるし、うまくいくことの方が少ないからそこまで緊張しないんですけど…今日はなんか、うまくいかなかったら嫌だなって思ったらどんどん緊張してきちゃいました。すみません。」

この言葉でなんとなくいい気になったらしい隆は、
「大丈夫ですよ!僕って一緒にいたら落ち着くってよく言われるし。帰る頃には副交感神経しか働いてないはずです、あは(笑)」
とちょっとだけ理系っぽい返事をして場を和ませてくれた。
そんなこんなでいつの間にか汗は引いていた。
良かった。

先述の通りだが、料理は素晴らしかった。
アヒージョとか、パエリアとか、定番だけどやっぱり専門店で食べると美味しい…
ワインも進み、二人とも3杯ずつ飲んだ。

その店にいた2時間くらいで、隆といろいろな話をした。ほとんど隆の質問攻めで、私からは同じ質問を返しているだけだったが、そこそこ盛り上がった。

なぜアプリを始めたのか、前の恋人のこと、なぜ別れたのか、どんな人がタイプなのか、付き合ったら何がしたいのか、何を重視するか、結婚は考えるか、など…

私は隆に求婚しているつもりはないので、正直に、心のままを話した。

暇で。前の人は酷かった。遠距離で。横にデカくて豪快な人が好きで泣きぼくろと八重歯フェチ。お互い楽しめたら何してもいいけどよく食べる人なら食事楽しめるからいいな。自立してるかどうかは重視してる。結婚はそのうち考える。

隆は、3年付き合った彼女と別れたから。いきなり振られてしまった。趣味を共有できる友達みたいな子が好き。お笑いライブ見に行きたい。ある程度の会話が成り立たないと無理。なるべく早く結婚したい。

こんな感じの一問一答形式だったけど、なんとなく隆の人となりは把握することができた。
そして、タイプじゃないということも。

見た目はさておき、食が細くて酒も力も弱め。
ペンは剣よりも強し派の男。
私も国公立大学を卒業して働いていたが、やはり旧帝大の大学院生だ。結構学歴を鼻にかけているところがあり、息苦しかった。

だけどお笑いとか旅行とか話が合う部分では盛り上がって楽しかったし、いっぱい食べて!とご馳走してくれたので、友達からなら悪くないかも、とも思った。
研究内容などもかなり難解で聞いてるのが面白かった。更に、海外まで行って学会発表して表彰されたりしていて、すごい人だったから尊敬の念も生まれていた。

恋愛対象としてはまだ見れないけど…人としては好きになれる要素がいっぱいあった。

隆は私が大汗をかいていたことなど忘れたのか、
「今日は会った時から可愛かったけど…話してるうちに更にどんどん可愛く見えてきちゃってびっくりした!内から外に魅力が溢れ出てる。本当楽しかったよ!」
と素敵な言葉をたくさんくれた。
内面を強調されすぎているのが気になるが、悪い気はしない。

私も楽しかった!本当ありがとう!と手を振り、思い出したようにLINEを交換して、その日はお別れした。

その後すぐに連絡が来た。

「話しやすくて、本当に楽しかった!夜遅くなってしまってごめんね。気をつけて帰って!
むくちゃんが言ってた、○○とか、××の写真、俺にも見せてね。」

なんかいいじゃん、と思った。
彼氏って、おはよう、おやすみを言える人。
見て、猫いた!とか、この雲かわいいー!とか
どうでもいいことに相槌をくれる人。
隆と付き合う予定はないけど、
そういうのしてくれる人、なんかいいじゃん。

「こちらこそ楽しかったよ!ご馳走してくれてありがとう。またご飯行こう!」

実際はもっと媚び媚び絵文字をつけていた気もするがこんな感じで返信し、無事初アポは終わった。

次回、隆との2回目のご飯!

本日もご覧いただきありがとうございました!
次回もお楽しみに♩

おわり

いいなと思ったら応援しよう!