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2020.4.24

27日までの臨時休業の予定は変えずに、28日からは営業を再開しようと思います。ただ石川県からの休業要請はそのまま受けるつもりで、営業時間は20時までとし、5/6まではスタッフも休ませているので一日一組様とします。

臨時休業中まったく収入はありませんし呑気なことも言ってられないのですが、僕はこういう状況になっても比較的ダメージが少ないようなお店をやっていて良かったと思いました。お金を借りることは出来ても家賃や人件費など固定費を減らすことは難しい。最低限の投資で最低限の固定費でお店をスタートし、自分自信を成長させていく。そしてまた投資をする。このビジョンは間違っていなかったと思います。

どっちみち移転の準備の時間は必要だったし、営業しない分は割り切って新しいお店の準備に時間を割いています。毎日山に入り自然を感じ、季節の移ろいを感じる。この休業期間がこれから先の世の中で生きていく上で大きく活かされるような気がします。

僕は仕込み中や車の移動中はだいたいYouTubeを聞き流しているのですが、最近「科学的な適職」という本の紹介がありました。

スティーブ・ジョブズの「本当に好きなことを仕事にしよう」というスピーチは有名ですが、この言葉の批判から始まります。ジョブズは元々ITが好きであったのか?彼が最初から好きを仕事にしていたら思想家になっていたとのことです。これが印象的でした。

自分に関しても料理の仕事を選んだのは漠然と料理が好きという理由であったものの、外から見る世界と実際に入ってみて見える世界はそれは全然違うものでした。実際に働いてみても素人の自分とそのお店のシェフとでは感覚が全然違うしまったくシェフの感覚についていけない。ある程度経験を積んだと思っても、自分で新しい料理が作れない、作った料理が受け入れてもらえない。料理を嫌いになったことは一度もないけれど、仕事にするのを諦めようと思ったことは何度もありました。

僕はもともと大学では政治経済学部で勉強をして教員免許も取りました。卒業後は教育系の一般企業に就職し、営業職に就くも1年足らずで辞めて、半年間フリーターをした後にイタリアンのレストランで働き始めました。今思うと料理が心底好きで始めたというよりは、ただ今まで歩んだ人生とは別世界の「料理人」という職人に憧れて始めたような気がします。

だから最初働いたお店では現実と理想のギャップに苦しみましたし(全然うまくいかないし、仕事も地味なことが多い)、今だから言えますが毎日辞めたいと思ってました。ただそれじゃ悔しいという思いだけで続けた中で、ようやく料理の本質的な面白さに気が付き、段々と料理が好きになっていきました。上達すれば楽しくなるし、料理は地域のことや歴史のことすべてが関係してくる。そんな面白さに惹かれていきました。それは今でも続いていて、東京から地方に移住してからは更に料理が面白くなったし、今でも畑に行ったり山に入ったりする度にどんどん新しいインプットが増え、料理は益々面白いって思えてきます。

では何故今でも自分がそう思えるかというと、目指す料理の形が明確になっているからだと思います。今僕が表現したいのは、「能登の自然」。それも自分だけの力ではなく、地域の信頼する生産者の方達と一緒に。この目指す形が明確になるまでに、僕は10年かかりました。言い換えれば僕は心から料理が好きというよりも、能登の自然を料理で表現するということが好きだし、その表現を喜んでもらえることが何より好きなんだと思います。10年かけて心から好きなことを見つけたんだと思います。このスタイルがVilla della Paceですし、僕の料理を楽しみにしてくれる人がいる限りは、生涯料理を続けていくつもりです。

話を本の紹介に戻すと、仕事の幸福度を決めるのは

・自由:その仕事に裁量権はあるか?
・達成:前に進んでいる感覚は得られるか?
・焦点:自分のモチベーションタイプにあっているか?
・明確:なすべきことやビジョン、評価軸はハッキリしているか?
・多様:作業の内容にバリエーションはあるか?
・仲間:組織内に助けてくれる友人はいるか?
・貢献:どれだけ世の中の役に立つか?

この7つだと言います。

でもこれって料理の仕事を始めたばかりの頃の自分に当てはまるかと言われたらまったく当てはまりません。ちょっとずつスキルを身につけ、達成感を得て、仕事の内容を増やし、仲間を見つけ、裁量権を得てビジョンをしっかり身につけたことで、僕は今の仕事が好きだと幸福感を持って言えるのだと思います。

新型コロナウイルスの影響で、日本も全国で大変なことになっていてうちもどうやって生き延びるかを真剣に考えていかなくてはいけません。テイクアウトやデリバリーなど、今までと一気にスタイルの変わった料理人もたくさんいます。僕自身は最初すごくそういったことには抵抗がありました。自分の世界観を殺してまでやることは、お客様も求めていないだろうし自分がやる意味がないと思っていました。ただ先程紹介した仕事の幸福度を決める7つの徳目は、今この状況で料理人の仕事がまさに当てはまるのではないかと思います。自分の表現を伝えられるのは本当にレストランだけなのか。自分が納得するものなのであればそれは家庭にも届けていきたいと思うようになりました。

お店が営業できるならばする。今まで以上に衛生面には気を配りますし、県の営業短縮要請には従います。それでもお客様が自分が作る料理で一時でも安らぎを得られるのならば営業は続けていきます。

能登の自然を家庭でも感じてもらえるような商品はまもなく準備が整います。行先のなくなった素晴らしい食材はなんとかしてお客様に届けたいし、今の時期に山から採ってきたもので季節感も感じてほしい。この状況下で自分の料理を通して出来ることはやっていきますが、長い目で見て続けられる仕組みを整えてからにしようと思ったので、準備に少し時間がかかりました。こちらは保健所の申請が下り次第、すぐに案内させて頂きます。

2020.4.24

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