プリンさんとの思い出 (ディーラーとして)

ミスタープリンこと富岡四郎さんが亡くなった。私がマジックの道に入る切っ掛けとなった人であり、また少ない日数でしたが同じ売場で共に過ごし、色々と学ばせていただいた恩師でもあります。忘れかけていた記憶を呼び起こし、プリンさんから教わった事や、気付いた事など幾つか書いておこうと思います。

あの伊勢丹の店舗面積で1日に20万円という数字を売り上げていたプリンさん、彼のマジシャンとしての腕や人柄の良さなどは沢山の人の話で伺うことが出来るが、私はディーラーとして、販売方法に関するプリンさんの手法に関心が強かったです。当時はかなり強引なやり方で一部の人には嫌がられていましたが、私は凄く影響を受けました。

・抱き合せやセット物をメインにさばく

手品グッズは単品で大体1500〜2000円くらいです。例えば5人のお客さんが一個ずつ買って1万円に届く位ですね。ところがセット物だと5000円、5人が買えば2万5千円の売上になります。この1万5千円の差額は大きい。プリンさんはとにかくセット物をメインにアピールされてました。単品で購入予定の客に対しても他の商品を更に勧めて、複数商品を購入させてます。ここでプリンさんが凄い所は、単品だけ買って帰る予定の客を引き止めて、さらに買わせる所です。悪い言葉でいえば・・高額な買い物を済ますまでお客をその場から帰さないというやり方です。その巧みな話術や接客方法についてはここでは省きますが、とにかく私は隣で見ていて毎回驚かされていました。また買ったお客が損をした感覚、嫌な思いをしてないのが見受けられて、これもまたプリンさんの成せる魔法なのかと感じた次第です。

・道具の扱い方が一流

マジックディーラーというのは商品の不思議さを如何にお客に伝えるかで決まります。その為には色々な工夫や細工をするのですが、プリンさんはとにかく巧みでした。詳しく書くとネタバレになるので大雑把な範囲で解説しますが・・ 例えばダイナミックコイン、リングを使わずに500円を出現させます。あのリングをはめたりする動作が一切省かれ、金属の容器だけで出現・消失・移動・貫通を行います。もちろんお客の手に握らせるという動作も行います。その仕掛けを教えてもらった時は目から鱗でした。あと代表作だったのが超能力カードという商品、スベンガリデックと現象が似ていますが、構造が全く違ってて見せ方も異なります。これをメインで見せるのではなく、例えば予言物の商品を紹介する時に普通のトランプと見立てて実演します。端から見ると卑怯と思われる人がいるかもしれませんが、ここでは良心よりも売上の方が勝ります。生活もかかってますし時代も許されてました。
他にもお札のマジックなど色々なアイデアを教えてもらいましたが、ここでは省きます。

・リピーターの取り方

例えばです、たまたま売場にきてマジックを見せられて、買うつもりがなく帰りたい客がいたとします。このお客はその場から離れる方法を色々考えてこう話します。「マジック面白いけど、欲しい品物がないんだよね」「ではお客様はどういった品なら欲しいですか?」「例えば大勢の人前で受けるような大きい物とか・・」「あります!あなたにピッタリの品物をご用意してます」と6本リングを棚から出して見せる。高額なのでお客はビックリ。「今は持ち合わせてないので、また今度にしますわ」「ではお金が用意できるまで、この品は予約品として誰にも売らずに保管しておきますね、あなただけにお譲りします」「ちなみに今度はいつこちらのお店に来られそうですか?」と言いながらメモとる仕草で次の来店日を確約させます。そこまで済ませてからこのお客を帰します。もちろんこれで終わってしまうケースが多いのですが、不思議なことに律儀な人は買いに戻ってくるんですよね、こういった地道なやり方が非常に参考になりました。

まぁ一部でしたが紹介してみました。現在は手品グッズもネットで買う時代、ディーラーもやり手がなく売場も縮小傾向、プリンさんも過去の人になってしまい、先人の残したやり方や手法は消えていく定めかもしれません。今回プリンさんの訃報を聞いて色々な事を思い綴ってみました。

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