置き傘
ぼくの傘を持っていきな。
いらない。
いいから、持っていきな。
男は無理やり女の手を握って渡した。
寒いんでしょ。
そう言いながら、少し震えていた女の手を離した。
使ったあとは捨てていいから。
男は捨て台詞を残し、振り返りたい気持ちを抑えて、肩を揺らしながら歩いていった。
男が歩いていると、雨が強くなってきた。
ほらね。
男はそうつぶやくと、歩くスピードを落としてわざと雨を浴びた。
次の日、男は高熱を出して、そこから数日間寝込んだ。
男が寝込んでいる数日間、誰からも連絡はなく、傘を渡した女に連絡してもつながらなかった。
1か月後、男が女に無理やり傘を渡した場所を再び歩くと、男の傘がそこにあった。
男は黙ったまま傘を手にとり、小さく震えながら歩いていった。