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特許適格性の議論はどこに向かう?

個人的な私見ですが、この1年くらいで米国特許法101条(特許適格性)に対する審査が厳しくなっているように感じます。

先日審査官と面談をした弊所パートナーによると、最近米国特許庁内で101条に関する新しい研修がされたそうで、考え方が変わったと伝えられたそうです。結果、面談の中で提案した応答案も、数カ月前であれば同条の拒絶理由を解消し得たが、いまではダメだと・・・。

米国特許庁からはまだ何も発表がないため具体的にどのような変更がある/あったのかは不明ですし、当該研修が特許庁全体での研修なのか、特定のArt Unit内での研修なのかもわかりませんが、落ち着いたと思っていた101条の議論が再燃しそうな気配です。
それも出願人や権利者にとってはあまり好ましくない方向に・・・。

さて、その一方で現状の101条の適用は厳しい(立法趣旨に反している)という意見も根強く、その先方を行くのは連邦巡回区控訴裁(CAFC)判事のJudge Newmanかも知れません。

判事の経歴はCAFCのウェブサイト(こちら)で確認できますが、Judge Newmanは御年96歳!
日本でも独立性を保つために判事には高い身分保障がされていますが、米国連邦裁の判事は任期が終身制(life-tenured)のため、一度任命されれば自ら辞任をするか弾劾制度によって罷免されることのない限り亡くなるまで判事としての任に就きます。
96歳になっても現役の判事を続けられるという意欲と体力には頭が下がりますが、後進に道を譲っていただいても良いのでは・・・という気持ちもします。

と、話が逸れましたが、Judge Newman、今月2日に出された判決(Real Data LLC. v. Array Network Inc.)の中で興味深い反対意見を述べています。

(本件の判決文はこちら

本件では、特許権者Realtime Data社がArray Network社を特許権侵害で訴えたところ、Array Networkが問題となる特許は特許適格性を欠くとの無効理由を主張しました。

本件特許は「データ圧縮のための方法およびシステム」に関するものでしたが、地裁・CAFC共に本願特許のクレームは抽象的概念を規定したものに過ぎないとしてその特許適格性を否定しました。

これに対し、Judge Newmanは以下のように指摘しています。

Judge Newmanの反対意見冒頭

要約すると、法101条の規定の趣旨はこんな形で特許性を否定するためのものではない、本件はむしろ法112条の実施可能要件が問題となる事件だ、というものです。
残念ながら、なぜJudge Newmanが112条の問題だと考えたのか具体的な説明はないため、本件の特殊な事情からそう考えているのか、それとも現状の101条の議論はすべからく112条の要件で判断するべきという意見なのかははっきりしないのですが、個人的には後者なのかもと思っています。

誤解を恐れずいえば、101条で拒絶されるものの多くは、クレームが抽象的概念(abstract idea)を規定しているだけだから、というのが基本的なロジックだと思います。言い換えれば、クレームが抽象的でなく具体的であれば良いことになり、具体的か否かは発明が実施可能なものかどうかで判断できる(実施可能なものならば具体的であるはず)、といった考え方がJudge Newmanの考え方なのではないかと(すいません、完全に私の個人的見解です)。
この考え方だと、101条はそもそも拒絶理由として要らない、という意見につながりそうですが、本件の反対意見においてJudge Newmanは、101条の規定は特許法の導入的な意味しかなく、特許となる対象を制限する趣旨はない、とも述べているので、おそらく当たらずとも遠からずかと。

なお、Judge Newmanの反対意見の中には、下院議員のDoug Collins氏(昔のNBA選手ではないです)、上院議員のChris Coons氏やThom Tillis氏の発言なども引用しているので、参考までに紹介させていただきます。

下院議員Doug Collins氏のコメント
上院議員Chris Coons氏のコメント
上院議員Thom Tillis氏のコメント

いずれも、保護されるべき重要な発明を適切に保護できない、発明の意欲を減退させる、アメリカの国際的な競争力を削ぐ、といったネガティブな影響に懸念を示したものであり、個人的にはこうした意見が届けば良いと強く願うのですが、本記事の冒頭でお話したように、どうやら米国特許庁はそうは考えていないようで・・・。

新たなガイドラインなどが発表されたらまたこちらでご紹介したいと思います。

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