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特許適格性に関するアップデート

既にご存知の方も多いかと思いますが、7月17日にUSPTOが特許適格性(Patent Eligibility)に関するガイダンスを更新しました。
今回の主なポイントは、AI関連発明に関する抽象的概念(Abstract Idea)の考え方について、近年の判例を基にした解説と、事例(Examples 47-49)の追加といえるかと思います。

追加された事例47-49はこちら

なお、初めてガイダンスが作成されたのが2014年の12月、その後2019年の1月と10月に2度内容が更新されているので、今回が4度目の更新となります。

今回新たに追加された事例は3つだけですが、AI関連発明に関わる方々にとっては参考になる内容かと思いますので、簡単に紹介させていただきます。


EXAMPLE 47: AI for Anomaly Detection Using Neural Networks (ニューラルネットワークを用いた異常検出用AI)

事例47では、異常検出のための人工ニューラルネットワークを実行する集積回路のクレームで、特許適格性があるとされる発明が紹介されています。

クレーム1は複数のニューロンと複数のシナプス回路とを備える集積回路に関し、各ニューロンはレジスタ、マイクロプロセッサ、入力部を備え、各シナプス回路はシナプス重みを記録するメモリを含みます。また、各ニューロンはシナプス回路の1つを介して少なくとも1つの他のニューロンに接続される、と規定されています。

上記の通り、クレーム1は集積回路の構成に関する発明といえ、典型的なソフトウェア発明とは異なります。
その上で、本クレームはニューラルネットワークを実行する特定のハードウェアを規定するものであるから、抽象的概念には当たらないとして特許適格性を認めています。

一方、ニューラルネットワークを用いて異常を検出する方法について規定したクレーム2に対しては、疑わしい挙動を特定するMental Processであって抽象的概念に当たると紹介しています。
ただし、抽象的概念を実質的用途 (Practical Application:ネットワークセキュリティの改善) に落とし込むものであるとして、特許適格性を認めています。

即ち、AI関連発明に関し、特定のハードウェアの実施や、AIモデルを技術的処理の向上・改善につなげるものは特許適格性があるとしています。

EXAMPLE 48: AI for Analyzing Speech Signals (音声信号を分析するAI)

事例48では、音声信号を分析し、目標となる音声を背景ノイズやその他の音声から分離するAIベースの方法が紹介されています。

クレーム1では、生の音声を受信し、それをスペクトログラムに変換し、ディープニューラルネットワークを用いて目的の音声を特定する方法が規定されていますが、本クレームについては抽象的概念 (Mental Process) であり、かつ実用的用途への組み込みもsignificantly moreもないとして特許適格性が否定されています。

一方、目的の音声以外の余分な音声等を排除して新たな音声を合成する処理等を更に規定した方法クレーム2については、技術的な向上・改善 (technical improvement) があるとして、抽象的概念を実用的な用途に組み込んだものに該当し、特許適格性があると紹介しています。

すなわち、クレーム2は、単にAIモデルを音声認識の分野に適用した者とは異なり、特定の用途 (音声マスクを生成) に用いることで特定の実用的な用途 (ノイズの多い環境における音声認識の向上) を達成するものであると説明されています。

EXAMPLE 49: AI for Personalized Medicine (個別化された医療用AI)

事例49は、線維症患者の特性に合わせてパーソナライズされた治療を補助するAIモデルを紹介しています。

クレーム1は、患者情報のデータと治療結果とに基づく術後の治療方法の発明が規定されていますが、本発明は抽象的概念 (Mental Process) であり、実用的用途への組み込みもsignificantly moreもないとして特許適格性が否定されています。

一方、クレーム1の治療方法に関し、具体的な治療方法が特定の点眼薬であることを特定したクレーム2の発明に対しては、抽象的概念を実用的用途に組み込んだものであるとして特許適格性が認められています。

具体的には、この発明はある特徴を持つ患者は点眼による炎症のリスクが高いという事実を前提としており、クレーム1は特定の集団に属する患者(炎症リスクの低い患者)を特定して「適切な治療」を行う、とだけ規定しているのに対し、クレーム2では、当該集団に属する患者に対してのみ「特定の薬の点眼」を行うと治療行為を具体化させています。

USPTOの説明によれば、この具体的な治療内容により抽象的概念が実用的用途に昇華されるとのことです。

私見

考察というほどのものではないですが、今回追加された事例をベースに考えると、特許適格性に関する101条の拒絶理由を解消する上で必要なのは、具体的な技術的改善内容がクレームに表されている必要がある、というのがUSPTOのメッセージなのかなと感じます。

発明であれば、何らかの技術的向上・改善 (Technical Improvement) はあると思いますが、それがクレーム十分に具体化されていると(審査官に)認めらる必要があります。
ただ、どこまで特定すれば十分な具体化といえるかはケースバイケースとなると思います。なお、単に技術分野や用途を特定しただけでは不十分、というのが判例のスタンスなので、そのあたりを踏まえた対応をご検討頂ければと思います。


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