アップルがイギリス市場から消える?

今回は英国のお話ですが、英国の高等裁判所においてアップルの特許権侵害が認定され、最大で50億ポンド(≒7600億円)!!の損害賠償請求が出されるかもしれない、という状況になっています。

アップルほどの巨大企業だと、特許権侵害でそんな大金が動くのか!という感じもしますが、今回の事件はちょっと腑に落ちない部分があります。
というのも、特許権者側が主張している50億ポンドという金額の根拠は、英国内での損害だけでなく、全世界での被害に基づいている、というのです。
英国の裁判所で争われている事件ですので、侵害の有無は英国特許権のみに関し、英国の法律に照らして判断されます。他国の特許権を侵害しているかなどは英国の裁判所が判断することはできません。したがって、賠償額を決めるときは英国内での侵害の事実のみを考慮する、というのが合理的といえるでしょう。

しかしながら、この問題について意見を求められた英国の最高裁判所は、全世界での損害を考慮して賠償額を決めることもあり得る、という回答をしています。

これに対しアップルの弁護士は、もし裁判所がそのような到底受け入れられないような賠償額の支払いを命じるようなことがあれば、アップル社は英国市場を撤退することもあり得るだろう、というコメントを残しています。本当にそんな判断をするかは疑わしいですし、裁判所に対してちょっとだけ牽制しておきたかったのだと思いますが、脅しともとれる発言ですね。普通なら、一企業が裁判所を脅すなんてあり得ないのですが、個人的にはアップル側の主張ももっともかなぁという印象です。

そもそも、英国の特許権が他国まで及ぶということはあり得ないですし、そのことは英国の裁判所も認めています。それにもかかわらず、もしここで英国の裁判所が他国での損害まで含めて賠償額を決定した場合、同じ訴訟が他の国でおきたときの賠償額はどうなるのでしょうか。
他国の裁判所が英国の裁判所の判断に拘束されることはないので、当然自らの司法権が及ぶ範囲で賠償額を決定できるわけですが、アップル側としては二重の支払いを強いられることになってしまいます。特許権者側による二重の利得の可能性を認めるのは妥当といえるのでしょうか?
ちょっと不可解ですし、合理的だとは思えません。

もう一つ、これは法律論ではなく実体的な話ですが、この特許権者はいわゆるパテントトロールといわれています。簡単に言ってしまえば特許権を悪用してお金を稼ごうとしている人たちです。こういう人たちに対して巨額の損害賠償を支払わなければならない判決というのは、やはり感情的に納得がいきません。

法律に感情論を持ち込むべきではないですし、裁判所は法に則って厳格に判断を下さなければならないことは理解していますが、英国の裁判所には柔軟な判断を期待したいと思うのは私だけでしょうか。

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