USPTO、TDの運用改定案を破棄

先日、USPTOがターミナルディスクレーマー(TD)の運用に関し、かなり思い切った改定案を出した、ということをお話させていただきましたが、反発が大きかったことから上記提案は取り下げられることとなりました。

参考までに、上記改定案に対する主だった反対意見をまとめておきます。

TDを提出するか否かの判断は審査を促進して費用を抑えようという場合が多く、自明性による非法定型二重特許拒絶を認めているとは限らない。

これは、USPTOが改定案を出したときの理由として、TDを出したということは、特許出願人自身が、関連する特許は全て自明な範囲の変形例だと自認しているのだから、どれか1つが無効になれば他の特許も無効とされるべき、という趣旨の説明をしたことに対する反論と思われます。

本同意により出願人の負担や審査の遅延が増える。

改定案では、1つの特許が無効になったら他の特許も無効になることに同意する、という宣誓が求められていましたが、これに対し、そのようなことを求めると、二重特許拒絶には反論で対応するケースが増える等、Dの要否について慎重な対応が必要となり、結果、出願人の負担や審査遅延につながるのではないか、という意見です。

本同意により、1つの出願により多くのクレームを含めようとする傾向がでるおそれがある。

理屈上、別出願にすると後願に対して二重特許と認定されるおれれが出るため、別出願を避け、1つの出願に多くの変形例を全て含めよう、という動きが出るのではないか、という意見です。

法律上、権利の有効性はクレーム毎に判断されなければならない (35 U.S.C. § 282)。

個人的には、今回の改定案を否定する上で最も効果的な反対意見の一つだったのではないかと思いますが、特許法上、権利の有効性はクレーム毎に判断される、と規定されているので、他のクレームはおろか、ある特許のクレームが無効になったからといって他の特許のクレームまで一律無効になる、というのは法律違反に当たる、という指摘です。
USPTOが法律違反しちゃいかんですね。

USPTOには実体的権利に影響をあたえるような権限はない。

これもかなり強い反対意見だと思います。USPTOは行政機関であって立法機関ではないので、権利関係に直接影響を与えるような政策の変更を行うことは越権行為となります。三権分立という憲法で決められた原則に反する行為ではないかという指摘ですね。
実際、もし今回の改定案が通ったらUSPTOを相手取って訴えを起こす弁護士や権利者が出るだろう、という予測もありました。


発表直後から反対意見がかなり大きかった提案だったので、取り下げられることとなって良かったかと思います。もちろん、賛成派の方もいたと思いますが、個人的には今回の提案はUSPTOの失策かなぁ、と感じていました。

来週に退任すると発表している、現USPTO長官のVidal氏、全体的には好意的な意見が多かった印象(あくまでも私個人の印象)ですが、この改定案は宜しくなかったように感じます。
とはいえ、こうして意見を取り入れて取り下げるという判断をしているので、改めて合理的な方だったともいえそうです。

なお、Vidal氏の退任後は、現副長官のDerrick Brent氏が長官を務めるとのことです。


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