おとなになるのがたのしみなおがになるためにvol.0(準備号)

2025年4月、保育所型認定こども園「船越こども園」の新設が予定されています。この連載は、設計を手がける建築家の三浦丈典さんが男鹿の人・もの・暮らしとのであいを通して「未来の男鹿にどうあってほしいか」をテーマに市民の今の願い、思い、小さな声を集めた記録です。(全6回/隔月連載)

準備号では4/28に男鹿駅前広場・ハブアゴーで行われたトーク「男鹿は未来」の様子をお届けします。男鹿から新しい発明でまちを楽しくする責任と、パイオニアとしての喜びがあると語ります。

登壇者
●男鹿市長 菅原 広二
●株式会社スターパイロッツ 三浦 丈典
●株式会社nest 青木 純
●株式会社See Visions 東海林諭宣
● エフエム秋田アナウンサー 高橋航(司会)
於/男鹿駅前広場・ハブアゴー


広場からはじまる 暮らしを分かち合う日常

2022年4月にグランドオープンした男鹿駅前広場「OGA ISLAND PARK HUBAGO」。私たち市民はこの広場をどんなふうに使ったらいいのでしょうか。広場の役割についての話からスタートです。

青木 2016年のオープニングに関わったことで僕たちnestが賑わいある日常づくりに取り組んでいる南池袋公園 は「この公園にはやっちゃいけないことがないような公園にしよう」と、ルールよりマナーを重視するようにしていて。また、公園で結婚式をやりたいという声があったらやってみよう、公園を映画館にしてみよう、と、使いたい人がやりたいことをできるだけ実現できるようにしてあげるという関わり方をしています。
この公園に来ればいろんなことがチャレンジできるんだ、と希望が高まってほしいと思っていますね。

池袋駅東口側にある「南池袋公園」


髙橋
 一つ前例があると、僕はこういう形で利用してみたい、とアイデアが出てきそうですね。


三浦
 普通の公園は遊具があるけれど、南池袋公園は芝生があって、それに面したテラス席が充実したカフェレストランがあって、言ってみればただそれだけしかないんです。だけど、それが使い方を限定しないことで「今日はここで子どもたちと遊ぼう」「今日は一人で本を読もう」とか、そこに行くと思い思いの形で快適に過ごせるデザインになっている。そんな広場は初体験だったので感動しました。


青木
 これから高齢化社会では、福祉施設で過ごせる高齢者の数にいずれ限界が来るんですよ。キャパが収まらない。そのときに、街中の公園が福祉の場になる、交流の場になる、というケースがこれからは増えていくんじゃないかな。


三浦
 ここの広場も、一人でも大勢でも来られるような場所になると、結果としていろんな人たちが交流する場所になると思うんです。お子さんやお孫さんが近くに住んでいない高齢の方でも、地域の子どもが拡張的な家族のような関係になったり、いつも顔を合わせることで仲良くなったりして、高齢の方に生きがいが生まれたり……。そうなってくれると公園は地域が元気になる起爆剤になるかなあと。公園の役割って暮らしの中で大事だと思います。


青木
 HUBAGOも日常的に皆さんが暮らしを分かち合うような場所になっていくと、外から来た人にも「男鹿ってこういう暮らしができるんだ」と伝わる場所になりますよね。公園というのは特別なものではなくて、日々いつも行く場所、家のもう一つのリビングみたいになるといいなと思います。




「男鹿いいとこだべ」

トークはこれから広場を活用していくであろう、男鹿で暮らす人々の話へ。


髙橋 菅原市長、男鹿の人って、どんな方が多いですか?


市長
 最近聞いて非常に嬉しかったのは25歳の若い女性が男鹿に移住してきた感想です。秋田の人は「秋田は何もねぇとこだ」と言うけれど、男鹿の人は「男鹿いいとこだべ」って言うんだと。それだけ男鹿はいいところだなと思っている市民が多いのかなと思って、非常にうれしかったですね。


青木
 男鹿の皆さんって明るいですよね。僕はいつもグルメストアフクシマ 福島肉店に行ってコロッケを必ず食べるんですけど、あそこのお店はまちの人が日常利用していていますよね。お店で会う男鹿の人たちってみんないい顔してるんです。なんか垢抜けているというか。なにがほかと違うのかと考えて、思い出したんですが、市長に初めてお会いした時に、「ここは先端地だから」と言っていたんですよ。なるほど!と。地図を見れば、本当に先っちょですからね(笑)

東海林 男鹿はかつて島だったこともあって、男鹿駅前の広場に「OGA ISLAND PARK」という名前をつけたんですけど、独自の文化や独自の誇りを持っていて、人々が思い思いに楽しんでる感じがしますね。


三浦
 僕はまだ男鹿に来てからそんなに時間が経ってないんですけども、例えば釣りが好きとか、自然の中を走るのが好き、とか、周りの環境を遊びこなしている人がすごく多くて。それがただ単に釣りに行って楽しい、じゃなくて、そこで取ってきたものを食べるとか、遊びと生きる・暮らしがつながっているような人たちがすごく多いなと思いました。
身の回りの環境を自分なりに楽しんで使う人が多いということは、こういう広場も「俺だったらここをこんな風に使う」と自由に使う能力に長けている人たちがいっぱいいそうな気がします。




「男鹿島民」という新たな視点

男鹿の方は、男鹿という環境を楽しんで自分のものにしている! という共通認識がありました。すると三浦さんから新たな提案が。



三浦 初めて市長室に呼ばれたときに、男鹿は干拓の前はほとんど島だったという話を聞いて。仮に干拓していなければどうなっていたんだろうな、というパラレルワールドを想像したらすごくワクワクしたんです。
便利になることは素晴らしいんですが、そうじゃない島的な価値観とかDNAがなんとなく男鹿には残っている感じがして。これからはもう自分のことを「島民」と呼んじゃうとかどうですか。


一同
 (笑)


髙橋
 「男鹿島民」!


東海林
 いい! いいですねぇ。


市長
 私は若い頃から「男鹿島」と意識して言ってたんですよ。秋田市から男鹿にくる出戸浜海岸あたりから見ると、男鹿は本当に島に見えますよね。「これが私たちが住んでいる男鹿だ」と、誇らしい気持ちになります。


東海林
 秋田市から海が見えた瞬間に、男鹿に入った! とワクワクするんですよ。


三浦
 わかるわかる。


髙橋
 トンネルを抜けて海が広がってくると、日常と違う場所に来たという気持ちになりますよね。


三浦
 島ってワクワクするじゃない。そこにしかない動物がいたり、そこにしかない文化があったりとか。


東海林
 男鹿もそうなってますよね。男鹿駅前周辺広場のプロジェクトで旧駅舎には「稲とアガベ」という醸造所ができて、レストランもできて、どんどん事業も拡大して船川の地域を盛り上げようとしている姿を見ると、もう希望しかないですよね。これから未来がどんどん楽しくなる気がします。
今、若い人たちもそういう独自の文化を魅力的に感じて移住してくる地域になってきてますもんね。「男鹿島民」、いいですねぇ。



「男鹿は未来」

「男鹿島民」という新たな視点に続いて三浦さんから「男鹿は未来」という新たなキーワードが掲げられました。これは3月26日に 船越公民館で開催された三浦さんの講演会「こっそりごっそり男鹿を変えよう〜船越こども園(仮称)が地域を変え、元気を与える!〜」の中でも登場した言葉です。一体どんな思いがあるのでしょう。


三浦 僕は「男鹿は未来」と思っていて。というのも、これまでの成長時代は東京とか大阪とか大都市が常に時代を先取っていて、それを地方が追従していく感じだったんですけど、2008年以降は縮小時代で、放っておいても人口が減って。今度は縮小が進んでいるところの方が未来になっていくんです。

三浦 つまり、男鹿は世界を先取りしていて、男鹿で起きていることが20年後くらいに大都市で起きてくるということになるんですよね。だから、ここで何か新しいやり方を発明しなきゃいけないし、そんな発明を考えることができる男鹿にはパイオニアとしての喜びがあるんじゃないか、というのが僕が「男鹿は未来」と言った大きな理由です。


青木
 そのとおりですね。高齢化も、孤立化も、いずれどこの都市でも同じ状況は迎えるんですよね。そのときに一歩先に行っている地方は他の都市に希望を与えると思います。
男鹿は、海もあって、山もあって、商店もあって、いろんなものがコンパクトに揃っています。先端地っていうワードも出てきましたけど、実際にトライしている人たちがたくさんいて、トライしたいモチベーションになる環境なのかな、と思っています。その人たちがつながり合うことで、新たにトライしたい人も入りやすくなる。そういう循環がどんどん加速していくまちは楽しみだな、と思いますね。


東海林
 若い方々が男鹿だからこそできることをどんどん楽しんでやってますよね。それは本当に未来を作っているなと思っていて。「やってみよう」という意味合いのこの「HUBAGO」広場でも、皆さんのチャレンジの場所になっていったらいいなと思っています。

市長 10年ほど前から地方にも目を向けられるようになりましたが、今日のお話のようにいろんな人が男鹿を訪ねて、男鹿の魅力の生かし方を教えてくれます。男鹿の特色をどう生かしていくか、皆さんが具体的に話をしてくれると、私たちも元気が出ますね。そのお話を受けて、私たち地元の人間も男鹿をどのようなまちにしていくかということを考える出発点に立っているなと思います。


髙橋
 中にいると見えないこともありますが、男鹿に足を運んでくださる方がその魅力に気づかせてくれますよね。


青木
 人が増えてくると人のつながりも濃くなるし、いろんな新しいアクションが起こると思うので、日本全国でおもしろい地域がないか、住むのに良いところがないか、と聞かれたら、一言目に「男鹿!」と言いたいと思います!


三浦
 広場がどんどん活用されていけば、広場だけじゃなく、ここに面した不動産の価値が上がりますよね。そこにチャレンジしたいという人たちが増えていくと思うと、すごくワクワクします。広場が親しまれることで、まちの価値も上がるんじゃないかな!


青木
 僕はこの広場ができる前の基本計画作りに参加させていただいたのですが、こんなことはできないんじゃないかと思ってた方もいると思うんですよね。だから実際に形になってこれから日常を積み重ねていくと男鹿の魅力がまた一つ増えますね。


市長
 青木さんと東海林さんがマスタープランを作ってくれたとき、芝生はみんなで張ればいい、維持管理のお金がないならみんなで収益を生むようにイベントをやっていきましょう、とそういう話をしてくれて、行政や民間だけでなく、市民が参加するという切り口があるんだなと思いました。男鹿が日本の、世界の幸せの起点になるように、まずはこの広場から頑張っていきたいと思います。

これからのまちの拠点になるであろうハブアゴー広場で、広場の話、男鹿の人々の話、そして男鹿の新たな未来の話をお聞きしました。

次回は、ライブやアートイベントなどでまちにお寺をひらく試みを長年続けていらっしゃる、大龍寺の三浦賢翁さんにお話を伺います。お楽しみに!

三浦丈典 Takenori Miura
建築家、スターパイロッツ代表。1974年東京都生まれ。大小さまざまな設計活動に関わる傍ら、日本各地でまちづくり、行政支援に携わる。著書に『こっそりごっそりまちをかえよう。』『アンビルド・ドローイング 起こらなかった世界についての物語』『いまはまだない仕事にやがてつく君たちへ』(いずれも彰国社)がある。


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