高消費電流(500mA以上)のマルチエフェクターにおける電源の取り方について
これが初投稿です。
マルチエフェクターの電源の取り方について悩む方は一定数いると思います。ボードをできるだけ小さくするためにはやはり電源にはそこまでスペースを取りたくないですし、かといって電源を蔑ろにするとノイズや故障の原因にもなりかねないのでそれも避けたいところです。
導入
近年ではGT-1000COREやHX Stompをはじめとする小型高性能マルチが各社からリリースされています。しかし消費電力を見てみると
であり、パワーサプライで駆動させるとなるとかなり重い消費電流であることがわかります。
近年売れ筋かつ一般的に入手可能なアイソレートされたポートを持つパワーサプライの最大電流を見てみると
となっており、VA-08のみ頭一つ抜けて9V 800mAとなっている以外はほとんど9V 500mAが相場となっています。
これでは上で挙げたマルチエフェクターを使ってしまうと過負荷となり故障の原因となります。
また、一般的なパワーサプライにはパーツの一つに3端子レギュレータというものが用いられており、例として東芝製の3端子レギュレータのデータシートには以下の注意書きがあります。
この文章からもわかるようにたとえ出力が1Aのポートがあったとしても定格ギリギリの運用は避けるべきであるということが読み取れます。ここで1ポートから上述のマルチエフェクターの電源を取ることは難しいと感じて頂けたでしょうか。
(但し、スペックに表記されている1ポートあたりの電流値が必ずしも最大定格ではない場合もありますし、設計に余裕を持たせるためにそういった方法は取られているとは思いますが、そうではない可能性も十分にありますし、何より買って実際に分解してみないと確認できません。[例:9V 500mAのポートに対して9V 1.5Aの3端子レギュレーターを使っている、など])
選択肢
ではどうやって電源を確保すべきでしょうか。ググって出てくる解決策?としては、
付属のACアダプタを使う
カレントダブラーケーブルを使う
USB PDを使う
の3通りが挙げられると思います。では、ひとつずつ検討します。
1. 付属のACアダプタを使う方法
これはシンプルですね。解決策というか正攻法です。パワーサプライについているコンセントか壁コンに繋ぎます。
この方法一番のメリットはやはり、信頼性の高さでしょう。メーカー推奨の給電方法ですから安心して使うことができます。
逆にデメリットといえば、ボードの中でサイズを取ってしまうことでしょうか。ものにもよりますが、ACケーブルを切り離せるものはコンパクトエフェクター1個弱くらいの大きさがあります。例を以下に示します。
コンパクトなボードを組もうと思うとこの大きさは馬鹿になりません。そもそも、大半のギタリストはスペースをケチるために他の方法を講じるわけですから。
私個人としてはこの方法を一番推しています。理由は簡単で、ボード構築において最優先事項は信頼性の向上だと考えるからです。電源が壊れるだけならまだマシですが、ライブ中や出先でサウンドの核であるマルチエフェクター本体がお釈迦になると洒落になりませんから、そうなる確率を少しでも下げたいわけです。
2.カレントダブラーケーブルを使う
この方法はACアダプタに対する代替手段として割とメジャーだと感じます。パワーサプライを購入するとそれ用のケーブルがついてくることもしばしばあります。簡単に使い方を説明すると、例えば9V 500mAのポートが二つあれば、そこにカレントダブラーケーブルをつなぐことで9V 1A(500mA + 500mA = 1A)が得られると謳っているものです。一見すると場所も取らないですし、ボード全体の電源がパワーサプライ1系統でまとまるので準備や片づけの迅速化にも貢献しそうです。ですが、
全くお勧めしません。
寧ろカレントダブラーケーブルをお勧めしないためにこのnoteを書いたと言っても過言ではありません。理由については
電流量は実際のところ単純和ではなく、結果としてパワーサプライの寿命を縮める可能性がある
からです。
電流量が単純和ではないというのはどういうことでしょうか。ここで3端子レギュレータの特性について調べると理解できます。
3端子レギュレータを並列に繋ぐとどのような挙動をとるでしょうか? その答えは以下の引用内にあります。引用元サイトで図解してますので、訪問してみることをお勧めします。
このように単純に並列つなぎしただけでは各レギュレータの出力電圧のブレに起因して負荷が集中してしまい、うまく出力電流を分散できないことが分かります。
引用記事の続き(https://techweb.rohm.co.jp/product/power-ic/dcdc/dcdc-application/9247/ )をご覧いただくと負荷を分散する方法が言及されていますが、果たしてカレントダブラーケーブルにはそのような対策が施されているのでしょうか?実際に手持ちのカレントダブラーケーブル2種類(CAJ製、Vital Audio製)について測定してみました。
結果としては
単に直結しただけ
でした。以下のサイトでも3機種について測定、分解されてますがどれも直結しただけだったようです。
というわけでカレントダブラーケーブルを使う方法は全くお勧めできません。寧ろなぜ単に並列繋ぎしただけのカレントダブラーケーブルという製品が市場で生き残っているのか判りません。この事実に背いて使い続けても故障の原因を抱え続けるだけなので現在使っている方は直ぐにやめましょう。見かけは配慮したつもりでも実際のところは定格オーバーでそのままつないでいるのと変わらないですからね。
ちなみに似た製品で昇圧するために用いる『ボルテージダブラーケーブル』がありますが、両ポートともアイソレートされている場合は基本的に使っても問題ありません。
3. USB PDを使う
もしかすると『1,2の方法は思いついたけど、これは思いつかなかった』という方もいるかもしれません。実際そこまで有名な方法ではないように感じます。そもそもエフェクター類に対してUSB経由で給電できるのでしょうか?というわけで、USB PDの規格を見ていきましょう。
上図からPD対応のUSBアダプタが15W以上供給可能な場合は9Vを出力できることが分かります。また、電流量も1.7A以上と十分であるといえます。マルチエフェクターの場合は9V 3Aあれば余裕ありとみなせますから27Wを目安とすればいいと思います。
Amazon調べると以下の製品がヒットします。一応、名称としては『PDトリガーケーブル』というのが一般的なようです。注意点として、極性がセンターマイナスを選ぶようにしましょう。あとはUSBアダプタ側がPD対応かつ15W以上であれば基本的には使えるでしょう。
ちなみに、PDトリガーケーブルを使うメリットとして
モバイルバッテリーが使える
という点があります。スタジオやライブハウスの電源事情に囚われなくてよくなったり、コンセントがない環境でも練習できるというメリットがあります。PD対応のモバイルバッテリーを併せて用意するといざというとき役に立つかもしれません。
もちろん純正のACアダプタに比べたら信頼性や耐久性は多くの場合で劣るでしょうがそもそも非純正ですからしょうがないです。実際にノイズが乗らないか、耐久性は十分かといったことを知りたいところですが、これはUSBアダプタや供給する電流など条件によって変わるため一概にノイズに弱いとはいえませんし、実際に試してみて十分ノイズが小さいと感じたら問題ありません。そもそも電源に限らず『オーディオ用=ローノイズ』というのは実際のところあまり正確とはいえません。オーディオ用を謳っているものも実は汎用品のラベルを貼り換えただけということもありますし(要出典)、まあオーディオ用といえば高く売れる世界ですから玉石混淆です。
話が少し逸れましたが、まとめると
DCプラグ側の極性がセンターマイナスの9VのPDトリガーケーブルを選ぶ
ACアダプタは15W以上、できれば27W以上のものを使う
ことで供給すべき電流の条件を十分満たすことができます。
まとめ
というわけで結論としては
おススメ → 純正ACアダプタ
アリ → PDトリガーケーブル
やめとけ → カレントダブラーケーブル
という並びになります。今後PDトリガーケーブルを入手したらノイズ比較検証したいと思いますので、その際はよろしくお願いします。
内容は以上となります。最後までお読み頂きありがとうございました。