現実の引渡し・簡易の引渡し・占有改定・指図による占有移転の違い
占有とは?
自己のため意思をもって物を所持する状態そのもののこと。
占有権とは
民法180条
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
占有権と本権(所有権、賃借権、質権、地上権など)は別の権利。
【問題】
Aは、Bが所有しAに賃貸している動産甲について、Bの承諾を得て、動産甲の賃借権をCに譲渡した。この場合には、Aは、動産甲のCへの引渡しがされていないときであっても、動産甲の占有権を失う。 (平成28年-9-エ)
答え:×
動産甲の引渡しをしていないので、Aは自己のためにする意思をもって物を所持している状態なので占有権は失わない。
占有移転の方法の違いを図解で詳しく解説
現実の引渡し(民法182条第1項)
簡易の引越し(民法182条第2項)
占有改定(民法183条)
指図による占有移転(民法184条)
占有移転の方法は上記の4種類。
この中でも占有改定(民法183条)は仲間はずれ。異色の存在。
現実の引渡し(民法182条第1項)
民法182条
占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。
具体例:売主から買主に商品を引渡す
あるところに食いしん坊のBさんがいました。
たいやきの匂いにつられて、Aさんのたいやき屋を見つけたBはたいやきを4つ購入することに。
たいやきをAから手引渡しされたBは、無事たいやきの占有を継承取得できたので美味しく食べ尽くしましたとさ。おしまいおしまい。
不動産の場合は、実際に建物などを明け渡すことが現実の引渡しになる。
簡易の引越し(民法182条第2項)
民法182条
2 譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。
具体例:貸してある物をそのまま借主に引渡すとき
あるところにAさんのことがとっても大好きなBさんがいました。
BはAとの接触を増やしたいために、全く興味のない本をAに貸してもらいました。
Bの下心を察したAは、ストーカーになられたら怖いなと思い、貸した本を「Bにあげる」と意思表示をしました。
本の占有権はBに移転し、Aはこれ以上Bと関わる必要がなくなり幸せに暮らしたとさ。おしまいおしまい。
なぜ現実の引渡しをせずに簡易の引渡しにするのか?
いったん借主が貸主に物を返してから、また貸主(売主)から借主(買主)に引き渡すのは面倒くさい。
貸主は北海道在住、借主は沖縄在住のように物理的に遠いので引渡しが困難な場合もあれば、距離は近くてもベッドのような持ち運ぶのが大変な大型家具や、高価な宝石や時計など持ち出すだけで盗難や紛失のリスクがあるものはそう簡単に持ち歩びたくはない!
なので、貸主(売主)からの意思表示だけで(現実の所持の状態は変わらないまま)貸主の占有を貸主に移すほうが楽な簡易の引渡しで占有移転する。
占有改定(民法183条)
民法183条
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
具体例:買った品物をそのままその店に預かっておいてもらうとき
あるところに買い物依存症のBさんがいました。
Bはさすが買い物依存症とあって、腕が千切れるくらいの量の買い物袋を持っていてもまだ買い物を止める気配がありません。
さすがこれ以上荷物を持ったら腕が千切れると恐怖を感じたBは、A百貨店で購入した荷物はそのまま預かってもらうことにしました。
BはA百貨店のお得意様なので、「B様の荷物をお預かりしておきます」と意思表示をしました。
A百貨店は、Bの代理人として所有の意思をもたずにBの購入品を他主占有
Bは、A百貨店を介して間接的に購入した品物を占有している(代理占有)
おかげで品物を持っていなくてもBは買い物した荷物を間接的に占有している状態になり、まだまだ買い物に行けましたとさ。おしまいおしまい。
直接引渡ししなくても、売買契約の効力は生じる(諾成契約)
ある日のこと、A百貨店の宝石売り場に新作ジュエリーが入荷しました。
A百貨店から新作ジュエリーの入荷連絡をもらったCは、即座に電話越しで商品を購入(諾成契約成立)
Cは品物は後日引取りに行くと伝え、A百貨店は「C様のためにお預かりしておきます」とCのための占有の意思表示をしました。
Cはまだ商品を受け取っていないが、電話1本で欲しかった新作ジュエリーA百貨店を介して宝石を代理占有を始めることができ幸せになりましたとさ。おしまいおしまい。
ネットショッピングも諾成契約。
商品が届いていなくても、注文完了した時点で諾成契約完了になる。
指図による占有移転(民法184条)
民法184条
代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。
具体例:物を他人に預けたまま、あるいは貸したままの状態で第三者に売ること
あるところにアパートを所有しているAさんがいましたとさ。
AさんはBさん夫妻にアパートの一室貸してました。
AはアパートをBを介して代理占有している
BはAの占有代理人としてアパートの一室を他主占有している
大家のAさんには老後ハワイに移住するという夢があり、アパートをC不動産に売却することにしました。
大家のAさん早速住宅のBさん夫妻にアパートをC不動産売却したことを伝えました。そしてAさんはC不動産にも通知をしたことを伝えると、C不動産から「承認するよ」と連絡がありました。
※アパートの住人B(占有代理人)にC不動産へのアパート売却の“承認”を求める必要はない。
→例えば、Bさん夫婦がAからの通知に対して「C不動産は悪徳業者なので、売却には反対です」と拒否しても、C不動産が承認すれば占有権は取得できる。
なぜ代理人に承認を求める必要がないのか気になる方はこちら。
AさんとC不動産は、指図による占有移転による方法で、アパートの占有移転を完了させました。
Aさんはアパートを売却したお金で念願のハワイに行き、C不動産はAから格安でアパートを譲ってもらえて幸せに暮らしましたとさ。おしまいおしまい。
指図による占有移転は不動産の他に、倉庫業者に預けている荷物のもあります。
【問題】
Aは、Bが所有しCに寄託している動産甲をBから買い受け、自らCに対し以後Aのために動産甲を占有することを命じ、Cがこれを承諾した。この場合には、Bの動産甲の占有権は、Aに移転する。 (平成28年-9-イ)
答え:×
AがCに対して命じているので、占有権は移転しない。
BがCに対して以後Aのためにために動産甲を占有することを命じて、Aが承諾すれば、占有権はAに移転する。
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