「好き」という感情が人を魅力的にする【マレーシア・ペナン島】
マレーシアのペナン島で出会ったその人は、とても愛らしく嘘のない自然な顔で笑い、心の底から自分の人生を楽しんでいるようなとびぬけた明るさを持つ、そんな素敵な女性だった。
彼女とは小一時間だろうか、ホステルのベットに腰掛けてお互いの話をして「おやすみ」と言ってお別れをした、ただそれだけなのだけど、(人の記憶に残るのに、過ごした時間の長さはあまり重要ではないのだと思った)。その時間がクアラルンプールに戻って来た今でもあまりにも印象に残っているので、書き残しておきたいなぁと思った。
どこから書こう、彼女に出会ったきっかけはペナン島の宿で働いていたおじいさんである。彼は宿のみんなのパパのような存在だった。
いつもわたしが聞くよりも先に、わたしの質問の答えを教えてくれた。宿に戻ると手を振って優しい笑顔で「今日はどうだった?」と聞いてくれた。出かける前にはいつも「どこに行くの?道はわかる?」と心配してくれた。
はじめてマーケットの場所を教えてもらったとき、方向音痴のわたしは宿を出てさっそくおじいさんに教わった方向と反対方向へずんずんと歩いて向かった。彼はわたしを笑って引き止めた。
それからは、宿を出ようとするたびにわたしの目的地を確認してくれて、宿を出て右へ行くのか左へ行くのか、正確な方向へわたしが進むのを最後まで確認するまで、透明のガラスドアからこっそり見守ってくれた。「こっちだよね?」と言うような顔でわたしが振り返ると、必ずおじいさんがドア越しに立っていて、オッケーポーズをしてからわたしに向かって優しく手を振った。
そんなおじいさんが1日目の晩に「エリカ、もうひとりマキコという日本人がここに泊まっているよ」と教えてくれた。「まだ会えていないや」と言うと、ラウンジの奥にいたそのマキコさんという女性を呼び出して、わたしたちを会わせた。
久しぶりに日本人と話をしたので、たぶんわたしは少しドキドキしていたのだと思う。そのときは簡単な挨拶と少しの当たり障りない会話をして「また話しましょう」と手を振った。マキコさんはもうペナン島にどのくらいいるかも覚えていないと言っていたので、何をしている人なのかちょっと気になっていた。
わたしがペナン島を出る前の晩にたまたまマキコさんと、ホテルのドミトリーの部屋で会うことができて、ふたたび話を始めた。
どこから来たのとか、次はどこへ行くのとか、そんな話をするうちにマキコさんはペナン島で絵を描いていることがわかり、どんどん面白くなって、わたしはマキコさんに永遠に質問していたんじゃないかと思う。
ヨーロッパに滞在していて、今は日本に帰る途中で東南アジアを旅していると話してくれた。今覚えば、詳しい仕事の話とか日本では何をやっていたとか、そういうことを聞くのをすっかり忘れていた。忘れていたというか、あのときのわたしたちはお互いに過去のバックグラウンドなんて、気にする必要がなかったんだと思う。
ただマキコさんは絵を描くことが好きで、ペナン島に来てから撮った写真とアートを組み合わせて、ポストカードやノートを作ってマーケットに並べたそう。
見せて欲しいとわたしが頼むと、マキコさんは嬉しそうにカバンから、次々と色鮮やかな作品を出してくれた。わたしはそれを見た瞬間、全ての絵を、本当に全ての絵を好きだと、素敵だと思った。
仕事ではなく趣味でやっている話。学校に通っていたわけでもなく自分の好きなように描いている話。昔絵が好きだったのに成績がよくなくて他人と比べて自分にはできないって思い込んでた、でもやっぱり好きだって気づいて始めることにしたんだって話。作品にしてマーケットに並べたりしたのは初めてだった話。ペナン島でいろんな人の協力を得て、印刷できるお店を探してイチから全部自分でやった話。
わたしはマキコさんのそんな話を聞きながら心底感動して今にも涙が出そうだった。そしてやっぱり、好きなことをやっている人はキラキラしていて、キラキラしている人のつくるものにわたしは惹かれるし、好きなことで埋め尽くされた人生ってなんて美しくてワクワクするんだろうと思った。
マキコさんは何も飾ってなくて、好きなことをとことんやっていた。でもその「好きなこと」にたどり着くまでに辛い思いもしていて、でも探し続けて、だから自分の弱い部分も全部ちゃんと知っていた。マキコさんはわたしと話をしながら、そういう部分も隠さずに全部、見せてくれていたような気がした。
だからなのか、はじめてあったマキコさんにわたしは、自分のことを勢いでたくさん喋っていた。わたしは普段自分のことを人に話すのが苦手だ。話してもわかってもらえないんじゃないかと心配してしまい、自分を守る模範解答で会話してしまうことがある。(悪い癖だと思う)。初対面のマキコさんにあんな風に話せたのは、マキコさんが飾っていなかったからと「初対面」だったから、だと思う。
本当はまだいろんな迷いがある話とか、海外で働くことの楽しさとか、好きなことをする時どれだけ楽しいかとか、なんかそんな話をペラペラと話していた。マキコさんは優しく全部を受け止めてくれて、素敵だねとか、その通り!とか、共感してくれるたびにわたしは、涙が出るのを抑えた。
文章も絵も、写真も動画も会話でもなんでも
発信することはちょっとドキドキする。でも、それでもそれがすごく楽しいとマキコさんが言っていた。自分の感じたものや見たものを自分なりの表現で誰かに伝えて、それが誰かに伝わったとき、嬉しい。自分が感じたことを表現することは自分にしかできなくて、誰も同じものを創れない。自分で創り出したもの、考えたこと、自分の世界とか、それを発信することってなんか、大げさだけどちゃんと自分の人生を生きてるぞって感じがする!
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ペナン島の街はユネスコの世界遺産に登録されていて、ウォールアートが有名。この島にはクリエイティブな人が集まっている。
他に、イタリア人の動画作成者にも出会った。シナリオを自分で書いて、配役もペナン島の人をスカウトして撮影も全部ここでするらしい。きっとここは、そういうアイディアをくれる場所なのかも。その人はすべての動画が完成するまでの間、節約のために毎日リトルインディアでカレーを食べていると言っていた。
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わたしがマキコさんの作品の中から選んだお気に入りのノート。後からそっとタイトルを教えてくれた。
「Be yourself」
ノートに罫線がないのは、何にも縛られず、自由にかけるように、だそう。
ペナン島のホテルのおじいさん、素敵な出会いをどうもありがとう。自分の創った空間で出会いが生まれる瞬間って素敵だし、やっぱり好きなものや人を全部組み合わせて素敵なものを創れたらいい、な!
マキコさんのインスタグラムが素敵です。
@makiko_art_traveler
@makikocreation