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【日本の美術界の構造(お金の流れ)に入らざるを得ないなら。いかにしなやかにいられるか?】世界のアーティスト・イン・レジデンスから|日本編①(スタッフの声)

「世界のアーティスト・イン・レジデンスから」はPARADISE AIRスタッフが参加したシンポジウムや視察の経験を共有する報告会シリーズです。スタッフ間の情報共有を公開イベントとして行うことで、世界各地のAIRの最新情報をお伝えしたり、AIRに興味のある方との交流の場を作っています。

2019年10月10日京都にて、文化庁の助成を受けて活動する全国のアーティスト・イン・レジデンス運営者が集まり、課題の共有や活動の成果・評価についての議論を深めた「アーティスト・イン・レジデンス事業 評価交流会」が開催され、PARADISE AIRから2名が参加しました。

PARADISE AIRは2019年度の文化庁助成「アーティスト・イン・レジデンス活動支援を通じた国際文化交流促進事業」に採択されています。
本イベントは交流会の報告だけでなく、「あいちトリエンナーレ2019」への補助金不交付の決定(編注:不交付ではなく減額交付になることが2020年3月23日に発表されました)をふまえ、アーティスト・イン・レジデンスを運営する当事者として自身の活動を見つめ直す機会となりました。

世界のアーティスト・イン・レジデンスから|日本編
日程:2019年10月22日(火・祝)
時間:14:00~15:30
会場:PARADISE AIR 5F ラウンジ
発表者:長谷川新(PARADISE AIRゲストキュレーター)、五藤真(アドミニストレーター)、PARADISE AIRスタッフ
※2019年当時の内容です。最新情報はご自身でご確認ください。

評価交流会について

日本中・世界中にAIRはあるが、日本国内のAIR同士、横のつながりが薄いため。文化庁助成を受けている団体に文化庁が声がけし集まった会。

開催レポート(議論内容のまとめやモデレーターによる事後コメント等)

PARADISE AIRが採択されている助成事業

PARADISE AIR
昨年度事業報告についての審査フィードバック

<AIR系研究者/有識者からの審査コメント紹介>
◉評価
PAIRはここ数年文化庁から助成を受けている、H29については概ねよいフィードバックだった。若い運営者、海外とのネットワーク、資金獲得の努力姿勢、民間の建物オーナーとのコミュニケーション、海外AIRとのネットワークハブになっていることについて評価。若くて新しいことにチャレンジしているという印象だそう。
◉課題

事業の継続性と滞在後のアーティストへのフォローアップ。H29のネットワーク成果をその後も発展させてほしい。

文化庁の話(あいトリ以後)

文化庁が京都に本格的に移転するのは2021年度。いまは東京・京都にオフィス機能が分かれている。縦割りを超えて、風通を良くすることを目指しているようだ・・?

◉文化庁採択の取りやめ/助成金不交付についての問題

手続き上の不備、作品出演者の犯罪、等の理由があって不交付になったようだが。

文化庁への意見書の提出
AIRを持続するために日々運営しているPARADISE AIR。文化庁助成を受ける主体として、上記問題については有志のAIR運営団体とともに抗議声明文を提出。AIR団体にも様々な立場・運営方針があるので有志として署名する/しないはそれぞれで判断があった。
この声明文はオンラインには載っていない。SNS等でもシェアしていない。文化庁を攻撃するためでなく、対話を始めるための手段だから。PARADISE AIRでは文化庁を拒絶するのではなく将来に渡って芸術文化を一緒に盛り上げたい。ポジティブな気持ちでアクションを起こそうとしている。

交流会の話

参加団体リストをみると、AIR_J、AIRネットワークジャパンなども含まれていた。AIRを始めたい・準備中の人も含めて参加していた。

文化庁・事業担当者からのあいさつ
あいちの件では不安にさせてしまっている、しかしAIR事業団体とは今後も協力してやっていきたい。

文化庁・芸術文化調査官のあいさつ
文化庁内で芸術文化調査官といえば文化遺産を調査する人がほとんどの中、現代美術の担当者が急きょ参加。
縦割りを超える、東京・京都の隔たりを超えるというミッションはあるが、うまく行かないところもあるため直接話したく東京から参加。個人的には・・・自分もモヤモヤしている、交流会が少しでもその解消に役立てば良い。各団体・組織にそれぞれの思いがあるのは当たり前。一部の事象や不安がAIR事業者にも影響があることには自分も「モヤモヤ」。

<長谷川コメント>
文化庁には一つの法人格として意思・判断があるはず。自分たちの活動はその影響下にあるもの。文化庁の中の人、個人的には、の話は法人格を分裂させるものだと思う。組織という単位でルールや手続きを守り示すことはあるべき倫理だと思う。

女子美術大学・日沼禎子さんによる日本のAIR研究発表

◉発表資料:「新たな文化芸術の創造を支える活動支援および人材育成のためのプラットフォーム形成研究― 2018年度 研究報告(レポートPDF)」
レポートには様々なデータ、ヒアリングが掲載されている。

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(画像:レポートより引用)
AIR事業を行う団体は人一人を雇うのが精一杯、資金面で苦労しながら運営しているところが多い。

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(画像:レポートより引用)
担当スタッフはボランティアが60%、正規雇用は13%・・本職を持っている人が余暇で手弁当スタイル。
しかしながらAIRを回していくには人手が必要。
文化庁助成は300〜500万の規模なので、この助成が取れる/取れない/なくなることは人件費の捻出の面からも運営者のモチベーションに大きく影響がある。もし全額不交付が起きれば一発で運営できなくなってしまうリスク。

交流会グループディスカッションの報告

参加者が6グループ程度に分かれてディスカッション、発表の時間を持った。

<長谷川>
パフォーミングアーツのAIR運営団体が集まったグループに参加

「アーティスト」の定義
文化庁が想像しているアーティスト像からはとても離れている、いわゆる個人の画家・彫刻家・制作者の枠に収まらない。
エクスチェンジプログラム(個人の行き来)はパフォーミングアーツ事業ではあまり意味をなさない、応募していない。

年度単位のジレンマ
多人数での作品作り、作品展ではなく公演、ツアー(ワールドツアー)で数年作品を発表していくことも。年度単位で区切れない活動が展開されているが、助成金の申請は基本年度(1年)単位で行われている・・。
発表=公演の部分に助成が採択されることはわかりやすい、観る側を支援する助成金のありありかた。一方で、そのためには作品をつくる事前・初期段階のリサーチ等がとても重要になる。
 文化庁側:リサーチの意味・意義を文字化してほしい
 パフォーミングアーツ側:最終成果はツアーをして初めて見られること・・。事前段階で意図を正しく伝えるには限界がある
→コーディネーター、トランスレーター、キュレーター、メディエイター、ドラマトゥルグ の(製作・発表までの)役割が大きい、しかし人材は少ない

◉AIRに
求められていること
アウトプットと”アウトカム=結果”を文化庁に伝えてほしい、と強く言われた。それらを書きやすいような形は探していきたい&会話を閉ざすのではなく、場を作り会って話すことをすすめて行きたい。

<五藤>
全国各地のAIR事業者が集まったグループに参加

協働者について
協力・協働している行政、自治体など、相手によってかなりマインドが異なる。首長や担当者が変わることで付き合い方・求められることが変わってしまう。当初ビジョンから変えていく柔軟さがそれぞれに求められている。

自己財源について
人員の不足・・現スタッフのモチベーション維持も同時に取り組む=毎年、年間、日常的に行っているので資金の獲得方法も異なる。
レジデンスをお金に変えることはとてもむずかしい、「こんな経済的な価値がある」という論法は(文化庁等への)説明には効果的だが、事業・運営方針やレジデンスの目的には必ずしも則していない。
文化庁から文科省へAIRの価値(経済的価値)を伝えやすいようする必要はあるが、一方でAIRの本質的なことからは外れてしまう。
「誰に何を届けられているか?」については意識的になるべき。

質疑応答

・パラダイスの財源は文化庁?
文化庁からの支援+松戸市からの支援+自己財源(家賃収入など)

・日本のAIRの区分け、予算規模のなかでパラダイスはどのくらい?
PARADISE AIRの予算規模は3000万程度。ほかの団体も同程度、もしくはもっと少なくやっているところが多い。

・TOKASは東京都が運営、などおおもとが公共・行政で美術館的機能も期待されている。民間・個人のAIR事業者はもっと立場が弱く資金確保も大変。パラダイスは松戸市行政と民間的な活動が両軸うまく回っていると感じる。どのようにコミュニケーションを取っているか?
「街と一緒にやっている」=街に必要だと思ったからAIRを始めた。(AIRがやりたくて始めた、ではない)賃貸での自己財源や、SHORTSTAYは低予算でできる、等の継続するための仕組みがある。やめようと思えばいつでもやめられる形は大事にしている、市からの1万人呼ぶイベントをしてほしいなど大きすぎる期待には応えない(応えられない)。アウトカムを示すためのドキュメンテーションは手当り次第、毎年やっている

・その中でPARADISE AIRから松戸市に期待することは?
アーティストが年間100人来る、その人達がなにかを街でアウトプットする、ことを考えると予算3000万円が大きいとは思わない。多くの市民が参加できるイベントの実施は特に期待されるが、そのバランス(やってください⇔できないです/やるならば予算化しましょう)のコミュニケーションは常にとっている。

・AIRはなぜ「住む」のですか?
bi-より:関わる人と生活をともにするのは大前提、自然なこと。そこから何が生まれるかに期待している。生活すること自体がアウトカムそのものかもしれない。

<長谷川コメント>
インディペンデントキュレーターの服部浩之さん曰く。美術館=巨匠のため、グループ展=若手のため、などアーティストがいる場所は誰も言わないけど区分されている。AIRは若手も巨匠も中堅も誰でもいていい、なんでも話していい場所。

<PARADISE AIR 森より>
今日はスタッフ間報告会を公開で行った、AIRは場を共有した者同士で何かをする場所。それらは開かれている。
宣言文は提出することがゴールではない。この場も宣言文も過程として、文化庁との対話を作っていきたい。

<五藤より>
あいちの件で文化庁には思うところがあるだろう、毅然とした態度を示してほしい。というつもりで宣言文は出したが。
文化庁担当者の一人ひとりは真剣に話を聞いてくれるし、庁内での態度の分断も見られる。私達の側からの意見はとても求められていると思う、文化庁が今後施策を作るための意見になるはず。伝えるための意見を可視化していきたい。

<PARADISE AIR 田村より>
あいちの件で見えてきたこと:アーティスト活動/それに携わる活動する人は、残念ながら様々な決定がなされる美術界の構造ヒエラルキーの最下辺にいる。それを認識したうえで向き合えるか?が問われたと思う。
① 日本の美術界の構造(お金の流れ):日本政府>文科省>文化庁>公的機関(美術館など)>館長・キュレーター>アーティスト
→日本では大きなお金は民間からは出てこない。アーティスト活動するということは、この構造に入らざるを得ない部分がある。
② 市民の目・監視の構造:電凸した人たちは(その人たちなりの価値観で発言し)自分たちの声が届いたという達成感を得ているはず。アート界隈では意識されていなかった人たちの考え方にさらされたと思う。これからも続くであろう市民からの監視にどう向き合うのか?という問い。
→こんな状況の中でいかにしなやかにいられるか?という中で出てきたのがこの会の開催。

パラダイスのスタッフたち(それぞれにアートに携わるフリーランス達)も、個人ではこの会を作ることはしなかったと思う。スタッフ個々には絶望しかなかったが、事前にみんなで話したことで少しでも前向きになり、会を開けた。大体が暗い話となってしまうが、周りの人と話し合って力に変えていくことができれば。

<森より>
日本だけで見ると絶望だが・・中国にも検閲が。私たちだけの問題ではない。たたかう仲間は世界中にいるのだろう、ネットワークがリソースになりうると思う。

<長谷川より>
日本だけが「悪い場所」になっているとか、特殊な状況にあると考えるべきではない。状況が壮大なコントみたいになっていたとしても、「敵」をなめてはいけない。「統治システム」のなかには、姿は見えないけれどとても優秀で計算高い人たちがたくさんいる。ホスト・ゲストの関係があるAIRはオモシロイと思っている。風通しのよさを維持していきたい。


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