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【東を新たに想像する】パラダイスエア的ロシアへの道|PARADISE AIR(松戸)✕Vostok(京都)✕ZARYA(ロシア・クラスノダール)

公開ミーティング「パラダイスエア的ロシアへの道」
日程:2021年3月30日(火)
時間:18:00~20:00
会場:オンライン
スピーカー:Vostok +パヴェウ・パフチャレク(キュレーター)
ゲスト:アリサ・バグドナイト(ZARYA Center for Contemporary Art)
モデレーター:金巻勲(PARADISE AIR)
通訳:田村かのこ

「Knot」はノット、結び目、結び方のこと

PARADISE AIRでは今年度から「PARADISE Knot」と名付けた、アーティスト・イン・レジデンス(以下、AIR)同士の結びつきやAIRとアーティストのより良い出会い方の個別解を丁寧に模索するプログラムを実施しています。

PARADISE AIRがロシアのAIR「ZARYA Center for Contemporary Art*」と京都西陣のアーティスト・ラン・スペース「Vostok」のメンバーに出会ったのはどちらも2019年のことでした。Vostokとはロシア語で「東」を意味すると聞いたときに、(その当時は)ロシアの極東ウラジオストクに拠点をおいていたZARYAとの新しいつながりが見えた興奮から、この交流プロジェクトは始まりました。
(*現在レジデンス施設は「Golubitskoe Art Foundation」としてロシア南部・クラスノダール地方ゴルビツコエに移転)

当初は2020年度中にVostokのメンバーがロシアに渡り、ZARYA Golubitskoe Art Foundationでの滞在制作と作品発表を行なう予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により渡航計画は延期に。しかしながら、先行きが不透明化する中でもVostokチームはロシアでの制作を想定して作品プランを練ってきました。
そのプランをZARYAのチーフ・キュレーターAlisa Bagdonaite(以下、アリサ)にオンラインで発表し、フィードバックを得ることが今回の公開ミーティング目的でした。2021年3月30日時点で交わしたやり取りの備忘録として、noteに記録を残します。

パヴェウ・パフチャレク:東を新たに想像する

まずは今回の企画を取りまとめているパヴェウさんから全体概要を紹介してもらいました。
パヴェウさんはポーランド出身で、美術分野のキュレーションのみならず、大阪大学では外国人招聘研究員としてアカデミックな活動を行う人物です。今年度中のVostokメンバーのロシア渡航が難しくなり、また、ZARYAのレジデンス施設がウラジオストク(ロシア極東)からクラスノダール(ロシア南部)に移転したことを受け、コンセプトの練り直しが必要になったタイミングでこのプロジェクトに参加してもらっています。

◉全体スケジュール(の希望)
2021年10月:クラスノダールにて滞在制作開始・ロシア他都市でもリサーチ
    12月:モスクワにてカンファレンス参加
2022年 1月:展覧会開催

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◉コンセプト案
Vostok(東)とZARYA(在極東)のコラボレーションは最初のアイデアであったが。今再び整理してみると、ロシアも日本も西洋からすると東に位置づけられることは変わらない。地理的に東にあるだけでなく、西洋世界に対する概念として「東」は広大な非西洋社会として広がっている。『東を新たに想像する』ことがこのメンバーとともにできそうだと思っている。

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◉アリサより
クラスノダールに移転しても、「東」として自分たちを捉え続けることはとてもしっくりきます。また、ロシアは広大なので、国内にもさまざまな隔てたり/繋げたりするものがあります。例えば黒海が境界として機能していたり、シルクロードが東と西を繋ぐものだったり。キュレーションの観点や概念的な枠組み、コンセプトメイキングは引き続きディスカッションしていきましょう。
ちなみにZARYAでは「CONTACT ZONES」というロシアに接している/近隣の国との交流プログラムを行なっていて、この交流もその一環。移転はしたけれど、上海、青森、松戸などのAIRとともに引き続きプログラムを続けていきたいと思っています。

矢津吉隆:「副産物産店」世界循環箱プロジェクト

芸術大学移転の建築設計プロジェクトを発端として始まったアートプロジェクト(アートユニット)「副産物産店」、アートスペース「kumagusuku」の運営など、アートと人をつなぐプロジェクトを手掛ける矢津さん。今回のロシアとのプロジェクトでは、人が動けずモノは動ける、というパンデミックの状況を活かそうとしています。

◉副産物産店の営みから
芸術の活動から出る廃材を副産物と捉えて循環、流通させることで物の価値について考える事を目的とした「副産物産店」。アーティストや工芸作家から貰い受けた廃材を加工してプロダクトを作り販売している。店舗での販売、インスタレーションでの展示、など見せ方にバリエーションが有るのも特徴。
環境問題としてのゴミの問題は各国共通ではあるけれど、国や民族、職種によってゴミの定義付けは異なる。ロシアのアーティストが何をゴミとして認識し定義付けるのか、そこに日本との違いがあるのか、その差異から何が読み取れるのか、とても興味がある。

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◉世界循環箱プロジェクト
京都からロシアへ空箱を送り、ロシアのアーティスト達の副産物(クリエイションの現場で出た廃材や展覧会後に廃棄になってしまうもの等)を入れて日本に送り返してもらう。それを新たに流通させるためのプロダクトに作り変え、もう一度ロシアへ送り発表したい。人は動かずモノだけが行き来するプロジェクトになる予定。自分はkumagusukuがあるのでロシアに行けない可能性が高い、けれど遠隔(モノを送り合うこと)で展示を成立させられるか?というチャレンジでもある。

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◉アリサより
二週間後に開催する展覧会のタイトルが「アップサイクル」なので、偶然の一致に驚きました!
レジデンスのあるクラスノダール地方ゴルビツコエは完全にロシアだった時期が短く、ギリシャの植民地だったという歴史も持っている面白い地域です。また、この地域では大理石が採掘できるのですが、それらの搾取が起きなかったおかげで今でも地元の人の家の修理などで大理石を切り出して使う(例:無くなったレンガの1ピースの代わりに使ったり)ことがあるんです。地域としての歴史・発展が「アップサイクリング」である、とも言えて、なにか手に入らないものがあっても古いもの/別のものを創意工夫して使ってきました。
「アップサイクル」で展示を行なうアーティスト達は公募で集まり、ジャンルは彫刻、写真、インスタレーションなど様々。展覧会オープン後に開催内容を共有しますね。

水木 塁:イメージの移動とそこに起きる脚色

分かる人には分かる、パルナス製菓のCMから始まった水木さんのプレゼンテーション。ロシア風のイメージやキーワード、メロディ、マスコットキャラクターの「パルナス坊や」が出てくる印象的なCM・・・残念ながらこの会社は2000年に倒産し、大阪の店舗も廃墟状態になっているそうです

◉コメント欄より
・なつかしい ​ここでパルナスがきけるとは!
・ご存知なんですね!わたしはみたことはない
・関西では日曜の子供むけアニメのスポンサーでCM流れていました。子供にしてみれば、少し怖いイメージでした。

◉イメージの里帰り
あるイメージが国や文化を跨いで移動する時、そこには「濃縮」や「脚色」が生じる。個人的な歴史や思い込みなどが加わって、現地の人が見ればギョッとするような変化を遂げることもある。今回のプロジェクトでは、パルナス製菓のCMのような大阪で採取したいくつかのロシア風のイメージを起点に制作に取り組みたい。そこから展開される制作は、つまるところ、大阪にあるロシアのイメージを「里帰りさせるような意識」(=還元の意識)を持って取り組むものになるだろう。もしかすると、大阪のイメージがロシアに形作られる可能性もある。イメージの相違や場違い感につながれば面白いと思う。

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◉滞在制作を通じて
ロシア都市部の裏路地観察、現地若者ファッション、現在のロシアカルチャーに触れたい。パンデミックの渦中にある世界では、都市がリスクのある場所として認識されつつあり、潔癖性がより強まっていく。その中でストリートカルチャーや都市の人々がどう変わっていき、どう追いやられてしまうのか、見過ごせない。自身の意識的にも都市空間的にも、周辺に追いやったこと(追いやられたもの)を美に還元することは自分の仕事だと感じている。

◉アリサより
ある文化が他の国に渡るとき、全く違う解釈や勘違いがおきることは皆共感できることだし、その間違いが問題となってしまうこともある。
CMも面白かった、、音楽はロシアのものに感じたし、青い帽子の「パルナス坊や」は小さい頃見ていたキャラクター「ネズナイカ」によく似ていて、懐かしい感覚。でも「パルナス坊や」を考えた人は、オリジナルのおとぎ話は知らなかったんじゃないかな?「ネズナイカ」はいたずらっ子でうそつきで結構問題児。物を触ったら壊しちゃうような子なので、本当に知っていたら企業のイメージアップにはつながらないと思うはず・・。ちなみに「ネズナイカ」の意味は「なんにも知らない」です。

笹岡由梨子:新たな「おそロシア」

続いて、映像作家として活動する(最近はインフルエンサーでもあるそう!)笹岡さんのプラン紹介です。"日本で一番自殺率が高い県"青森での滞在制作では"世界で自殺率の高い国"ロシアの人形を使ってインスタレーション作品を制作したそう。今回は、ロシアの物事に対してついつい使ってしまうジョーク「おそロシア」から着想を得た滞在制作プランを発表しました。

◉「おそロシア」はネット上の偏見、では実際は?
コロナ禍からのメイン・テーマであり、唯一信じられると感じる「自分自身」「食べ物」「人間と動物の関係性」をヒントに、滞在場所クラスノダールにある複数の動物園に通ったり、食べ物をリサーチするなど、日常で起きた「おそロシア」な出来事を複数のメディアで記録。それらのイメージをコラージュし、新たな「おそロシア」をビデオ・インスタレーションとして立ち上げたい。
(編注:今回の英語通訳では「おそロシア=Scary Russia」と説明しました。滞在制作を経たら、もっと良い訳が見つかるかもしれません)

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◉いま注目している、ふたつの動物園
ワニとカメの動物園 Krokoferma
アライグマの動物園 Domenota
どちらもクラスノダール地方ゴルビツコエ近郊にある動物園。

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◉アリサより
私自身、笹岡さんの作品のファン!今回のプランもセンシティブなところを突くもので興味深いです。どちらの動物園も観光客のための人寄せ施設として建てられたため、動物がちゃんとケアされているのか心配。そのあたりにハッとさせられました。
そもそもこの地域には文化的な資源(観光客に見せるようなもの)がないと思われているし、現代アートを見る機会も想定されていない土地柄。笹岡さんのリサーチによって、経済性を目的に建てられた動物園とアートがつながるならとても面白いと思います。私だけでなく街の人達の視点も新たになるかも。
◉コメント欄より
・ロシア的にもクレイジーな人寄せの動物園なのか…
・おそロシア!(の声多数)

西條 茜:「プロパガンダ磁器」を起点に

最後にプランを紹介したのは、陶磁器をメディアとしてあつかうアーティストの西條さん。日本各地・世界各地の陶芸技法をリサーチし、取り入れて作品を作っているほか、空洞をもったサウンド・オブジェクトとしての陶磁器作品も制作しています。
ロシアでの滞在制作では、ロシア革命後のソビエト政権下で作られた「プロパガンダ磁器」をオマージュした陶芸作品を制作することを構想しています。

◉テーブルウェアも集団主義プロパガンダのツールに
美術や工芸品の持つ社会的役割は時に変化し、それぞれの歴史を語る形あるものとして残っていく。ロシア・サンクトペテルブルクの帝国磁器工場では、18〜19世紀は上流階級のみが使えるような豪華絢爛な磁器を生産していた。ところが、1917年ロシア革命以後はそのデザインが大衆に向けたものに変わり、モチーフに労働者や「鎌と槌」といったソビエトのシンボルが用いられるようになった。日常的に労働モチーフのテーブルウェアを使うことで、民衆には集団主義のアイデアが刷り込まれていった。

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◉キーワードは「集団と個」「労働」「食」
滞在中は10名のロシア人労働者に「個人的な、働くことについての話」をインタビュー・リサーチして、10のテーブルウェアを作りたい。ロシアの歴史と労働者の個人史を作品に落とし込むプロジェクト。
また、ロシアとソビエトにおける食文化の変化にも着目して、作品を用いた食事会も開催したい。インタビューに協力してくれた10名を食事会に招待できればと思っている。
ロシア革命後の激動の時代、その変化を俯瞰的に見つめ、再解釈・拡大解釈を加えながら歴史的な物語に介入していきたい。

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◉アリサより
参加型の要素があり、地元の人にインタビューしたいという部分が面白く、ぜひ協力したいです。どういう仕事に携わる人に話を聞きたい?相談しましょう。
ロシアの陶磁器の歴史は長く大きく、レジデンスがあるこの場所も古い歴史を持つ地域なので、リサーチしがいがあると思います。過去に滞在して似たテーマでリサーチしていた人がいますので、その内容を共有しますよ。
◉コメント欄より
・ディナーパーティー!with くま
・ロシアって熊飼うらしいよ
・日常なのか
・こないだ、ホテルで飼ってた熊が逃げ出してニュースになってたらしい

アリサ・バグドナイト(ZARYA)

滞在プランの説明をありがとうございました!センシティブでありながらも、着目点が素晴らしく、みな実現可能なプランだと思いました。それぞれにお約束したリサーチや情報など、共有していきますね。
実はいま「CONTACT ZONES」プログラムの一環で、雑誌出版のプロジェクト"East East"を進めています。PARDISE AIRメンバーには是非そのインタビューに参加してもらいたいです。私達が「CONTACT ZONES」でやってきた事も紹介できるし、実際に来て貰う前の準備になると思います。

◉司会より
遠いと思ってきたロシアが少し身近に感じられ、アリサの言葉を聞いて「実現できるかも」という気持ちが更に大きくなりました。
ロシアで滞在制作できるその日まで、ぜひ見守って下さい!!!

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