個々のアーカイブから、事業評価を意識する

 今回ピアレビューのお声がけをいただき、知っているようでその実態を理解できないでいたPARADISE AIRの話も伺いながら、国際芸術センター青森 [ACAC] の過去・現在について、未来のことも考えつつ話すことができました。PARADISEとACACはロケーションやスタッフの規模・働き方、施設の設備やアーティストが滞在する目的も対照的ですが、これまで400名くらいのアーティストを受け入れてきたこと、予算規模が約3,000万円ほどであることなど、符号の一致が印象的でした。お互いの事業規模について一気に想像がしやすくなったのではないかと思います。

 ACACの施設規模に対して、学芸員や技術員といった専門スタッフ、および事務スタッフは、開館当初から最小限の配置になっています。これは施設運営のサスティナビリティを考えてのことでもあるし、市民がアーティストの創作活動をサポートすることがシステムとして組み込まれているともいえる。このようなミニマムな体制で、常に目の前にいるアーティストの創作活動支援、展示の企画から実現・広報、助成金・補助金の獲得や、地域の方々・学生との関わり、さらには国内外の関係機関との交流や調整などを学芸で担当しているため、正直言って「事業評価」に割く時間がなかなか取れていないというのが現状です。


 しかし考えてみると、「事業評価」を実施していないわけではありません。ACACは青森市から青森公立大学に移管された施設のため、行政として必要な「数」をはじめとする量的な事業評価については、毎年大学本部を通して市に提出している。また、そこから査定を受けてもいる。でも一学芸員の感覚としては「事業評価」ができてこなかったと感じる現状がある。ここに企画者・運営者自身が必要とする、質的な「事業評価」のあり方を考えるヒントがある気がしました。

 例えば私の場合、個別の活動やプログラムをもっと自分たちの手によって検証したいと思うと同時に、専門的な他者による意見(今回のピアレビューなどもそれに当たる)に加え、プログラムに参加したアーティストや地域住民など、自分たちの活動に関わるアクターからの評価も欲している。これはその評価を次に行う事業の企画に反映し、他者に自分たちの活動を説明するために「自己評価」が必要だということなのだと思います。その上で、施設の専門スタッフの中で中長期的なヴィジョンを共有できるよう議論し、可能な限り運営母体である大学とも共有し、組織として運営そのものを改善し続けるよう努力しなければならないと思っています。

 ACACにおける各種プログラムやAIRのあり方は変化し続けていますが、20年前から変わらず一貫して大切にしているのは、アーティストの活動、ここで生まれた作品の記録といったアーカイブ作業です。個々の展覧会やレジデンスプログラムを記録集(カタログ)もしくは機関誌(『AC2(エー・シー・ドゥ)』)にまとめる際に、滞在制作を伴奏した学芸員によるエッセイ、滞在制作自体を振り返るアーティストの言葉(インタビューかアンケートの形で掲載)、専門家による批評、そして制作過程に関わった方の感想を残すことをかなり意識しています。

 そのままの形で残ることのないアーティストの活動や作品をできるだけ記録しようという意識が強いため、これまでこうしたアーカイブを「事業評価」の観点から捉えることができていませんでしたが、アーカイブこそ「評価」という明確な意識をもって言語化しテキストとして残していないだけで、個々の活動をその都度振り返りながら評価の視点が内在するもののような気がしています。アーカイブを「自己評価」と連動させることができるよう、事業の目的を明確化していくこと、アーカイブを読み解く・使うことを意識するなど、できることからACACなりの「事業評価」システムを形作っていけたらと考えていますし、そこからアーカイブの方法そのものもいい影響を受ける気がしています。

慶野結香(キュレーター、青森公立大学 国際芸術センター青森 学芸員)


慶野結香(けいの ・ゆか)/ 学芸員
1989年生まれ。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。秋田公立美術大学、サモア国立博物館を経て、2019年より現職。近年の主な企画に、「いのちの裂け目ー布が描き出す近代、青森から」(ACAC、2020)、SIDE CORE/EVERYDAY HOLIDAY SQUAD個展「under pressure」(ACAC、2021)、「余の光/Light of My World」(堤拓也との共同キュレーション、ALTERNATIVE KYOTO in 福知山、2021)、小田原のどか個展「近代を彫刻/超克するー雪国青森編」(ACAC、2021-22)、「大川亮コレクションー生命を打込む表現」(ACAC、2021-22)など。

アーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」の持続的な運営のために、応援を宜しくおねがいします!頂いたサポートは事業運営費として活用させて頂きます。