【しをよむ105】大岡信「虫の夢」——空と土のグラデーションを。

一週間に一編、詩を読んで感想など書いてみようと思います。

大岡信「虫の夢」

(田中和雄編『ポケット詩集』(童話社)より)

ちょうどこの時期、土の中に眠る虫の話。
ふかふかした腐葉土の匂いをもう何年嗅いでいないかわかりません。
街中にいる虫は時々見かけるのですが。

この作品で語られているのは土と虫と野菜です。
個人的には、おいしい野菜は人間による品種改良の賜物で、
「自然の豊かさ」と「畑の豊かさ」は別物かと考えています。
余談ですが、私は安納芋を初めて食べた時、ここまでサツマイモを甘くとろとろにしたことに対して人間のエゴさえ感じました。
食べていると蜜が垂れてくる焼き芋が存在するとは思ってもいませんでした。
あれはすごかったです。美味しかったです。

純粋に自然界からもたらされるものでは、魚と蜂蜜がすごいと思います。
海とか川で獲ってきたらもうそれがおいしいのは、改めて考えると驚きです。
ぷりっぷりのお刺身とか、イクラとか、食べたいです……。
蜂蜜も、花の蜜のままだとほんのり甘いかな? というものが、蜂たちの生涯をかけた働きであんなに濃厚な味になるのがすごいです。蜂の巣の構造もきれいですし。

屋久杉をはじめとする大樹も好きです。食べはしませんが。
水と土と太陽の力で千年以上を生きて、あんなに大きくなるのが素敵です。
スケールに圧倒されたいです。

私の日々の暮らしでは、木々に囲まれたり腐葉土を踏んだりするのは、
「意識しないとできないこと」になっています。
遠出をするのに気が引けてしまうここ最近はなおさら。
短時間の外出のなかで、街路樹や植え込みの様子が変わっているのに気付いたり、空気の色や温度の違い、季節の匂いを感じたり。夜であれば星を見上げたり月を探したり。
日常ではそんなささやかな自然と時間を探すのが精一杯です。

もちろん自然は恵み深いだけでなくて、毎年のように台風や大雪に見舞われる地域もあれば、食うか食われるかの生き物たち、毒を持つ動植物、災害などもまだまだ身近にあります。
そういったものへの対策をじわじわと進めてきた歴史を経て、
「自然っていいよね」とか「癒される」とか言えるまでになってしまった現代の私たちを思うと、
この詩を含む「自然」観の奥深さになんだかくらくらします。

おそらく今後も、私が接する「自然」は人の手が入り、きっちりとルートも整備されたハイキングのような「自然」なのだと思います。
「自然」と「人工」は二項対立ではなくグラデーションのように作られていること、
人間が手を加えなかった場合、この世界はどのように影響を及ぼし合い、サイクルを回していくのかを考えてみること、
この作品を読みながらそういったものに思いを馳せました。

お読みいただき、ありがとうございました。

来週は吉野弘「I was born」を読みます。

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