【しをよむ087】吉野弘「祝婚歌」——推しキャラはかわいい、という話。

一週間に一編、詩を読んで感想など書いてみようと思います。

吉野弘「祝婚歌」

石原千秋監修、新潮文庫編集部編
『新潮ことばの扉 教科書で出会った名詩一〇〇』より)

結婚式の定番……と言いたくなりますが、実はあまり聞いたことがありません。
出席した経験はまだ少ないので、これから聞く機会が増えるのかもしれませんが。
なんかこう、上司の挨拶で語られそうなイメージがぼんやりと形成されていました。
ちなみに、「てんとう虫のサンバ」も未だ聞いたことがありません。
これは私の交友関係が合唱に偏っているからなのか、時代の流れによるものなのか。

さて、そんな「定番」の結婚式のイメージを抱いて読んでみたこの詩、
いい意味で予想を裏切られました。
偉そうなことを承知で言うなら、見直しました。

「祝婚歌」というタイトルながら、「夫」も「妻」も「男」も「女」も出てきません。
人を表す言葉として使われているのは「二人」「自分」「相手」だけです。
ありとあらゆる睦まじい関係のための詩。
親友、相棒、バディ、そんな二人にも当てはめることができます。

と言うか、これタイトルが「祝婚歌」だからか「二人」と限定されていますが、
もっと多くても良いですね……!
私の中では『ゴールデンカムイ』の杉元、アシリパさん、白石の三人が駆け巡っています。
みんな、ふざけあって健やかにヒンナヒンナしていてほしいです……。
狩は命のやり取りですから甘えは許されませんし、鋭い感情のやり取りもあるでしょうが、ちゃんとその後で余すところなく獲物を食べて仲直りするんです。
杉元もアシリパさんもひたむきなので、正しいことを言うときにはまっすぐで
相手を傷つけてしまうこともありそうですが、
そんなときにはずっこけ担当の白石がうまく仲立ちをしてくれるのであってほしいです。

健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい

とか、もう、本当に……。

それからもう一つ思い出したのは『図書館戦争』シリーズです。

正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気づいているほうがいい

のところ。
『図書館戦争』でも「正論は優しくないよ」という台詞がありました。
初めて読んだときにハッとさせられて、
それ以来今でも気をつけるようにしています。

『ゴールデンカムイ』『図書館戦争』に限らず、
推しキャラって、「かわいい」と思うようになったらもう沼から抜け出せないそうです。
「かっこいい」だと何かの折に「かっこよくない」と幻滅する可能性が残っていますが、
「かわいい」だと何をやっても「ギャップかわいい」だったり「ポンコツかわいい」に
変換されるので、かえって愛しさが増すと。

今までの自分を振り返ってみても、周りを見てみても、頷ける気がします。

完璧でないからこそかわいくて、沼から抜け出せなくなってしまう。
「祝婚歌」で詠われているのって、自分がそう感じるのはもちろん、
相手も自分をそう思ってくれている関係ってことですね……?
お互いがお互いの最推しである毎日……。
そう考えてみると、すごいです。

しばらくは信頼で結ばれたいろいろな二人(あるいはもっと大勢)と
この詩を重ねて、幸せな気分になれそうです。

お読みいただき、ありがとうございました。
来週は草野心平「春のうた」を読みます。

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