【しをよむ111】工藤直子「あいたくて」——物語の種を綿毛にくるんで。

一週間に一編、詩を読んで感想など書いてみようと思います。

工藤直子「あいたくて」

(田中和雄編『ポケット詩集』(童話社)より)

合唱で歌ったことがある詩です。
私が知っているのは木下牧子作曲の混声合唱バージョン。
そこそこ高い音をピアノで歌い出すので気を遣うこと気を遣うこと……!
歌い終わりもそこそこ高い音をピアノで伸ばし続けるので気を遣うこと気を遣うこと……!
繊細で美しい曲で好きでした。
「あいたくて」に限らず、曲集「光と風をつれて」の収録作品はどれも好きです。
「雨」のリズムと音階も難しかったですね……、好きですけど。
8分の9拍子の二連符って何事。

合唱の思い出を語り続けるのも何なので、詩の感想に移ります。
「あいたくて」は私の中では、同じく工藤直子による詩集「のはらうた」の「ねがいごと(たんぽぽはるか)」と強く結びついています。

「あいたい」と願って飛ばされた綿毛が土に根付き、
やわらかな青い空を見上げて「あいたい」と思いを継ぐ。

フィクションの世界なら「あいたい」だれかやなにかは夢に出てきてくれるものですが、
この世界では正体もわからない「あいたい」思いが募るばかり。
切なくてさみしくて心細くて、でもだからこそ強い詩です。

この詩を読むと、私も「みえないことづけ」を持っていると思い出せるような気がします。
たぶん握りしめすぎてくちゃくちゃになって、もしかしたらインクも汗でにじんでしまっているかもしれません。
それでも「だれか」「なにか」に出会えるのが楽しみだから、
ときどき掌を開いて、ことづけをたしかめて暮らしをつないでいけます。

物語の本編は「だれか」「なにか」に出会ってからがはじまりです。
そういえば先に紹介した合唱曲集「光と風をつれて」は
「あいたくて」から終曲の「はじまり」につながるのです。

お読みいただき、ありがとうございました。
来週はまど・みちお「さくらの はなびら」を読みます。

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