【しをよむ120】高橋睦郎「鳩」——駆け引きというにはあからさまで。
一週間に一編、詩を読んで感想など書いてみようと思います。
高橋睦郎「鳩」
(田中和雄編『ポケット詩集』(童話社)より)
先週はうっかり忘れてしまいました。
今週からまた再開します。
鳩を挟んで微妙な距離感にある男女。
なんというか、読んだ印象なのですが、女性側は既婚ですよね。
で、男性側は独身でいわゆる堅気じゃない職業についてます。
三浦しをんの短編小説『ペーパークラフト』のような関係性。
手の中に抱かれる鳩は温かくて柔らかくて鼓動が早くて、
なるほど、剥き出しの恋心のようなのですね。
ふたりが鳩について語る前半も、そう思って読むと爪の先での愛撫じみたもどかしいエロティックさが感じられます。
最後に「あのひと」は鳩をはなし、「あたし」を腕に抱き取ります。
あからさまに好意を口に出せない緊張感から解放される一方で、
心を揺さぶられる不穏さはむしろクライマックスに。
「鳩」という暗喩や媒体をなくして直接触れ合ってしまったら、もう後戻りはできないから。
鳩が一般に平和の象徴とされているのも、この心のざわつきを高めているのでしょう。
鳩=平和 を失って手に入れる恋情。
何度か読み返してみて、この詩の「鳩」が恋心の隠喩のまま最後まで続くのであれば、それはそれでまた別の不穏さが出ることに気が付きました。
「あげてもいいわ」から始まった女性の言葉が「逃げたわ」で終わるんです。
最後の場面、女性は本当に「あのひと」のことを好きなんでしょうか。
詩全体のドライな読み口とも相まって勝手にハラハラしてしまいます。
最後に余談というか、余計な感想を入れます。
じわじわと不穏さが滲み出すこの詩、前回の「なのだソング」と隣り合わせるのはやめたほうがよかったのでは。
逃がされた鳩の安否がやたらと気になってしまいます。
だって飼い鳩が——人に抱かれておとなしくくるくる鳴いているような飼い鳩が——野良で生きていけるとはとても……!
独りを謳歌している猫にハントされてしまうのでは……。
鳩も無事でいてほしいですが、猫の習性を責めるわけにもいきません。
このまま考え続けると「あたし」も「あのひと」もそっちのけで
ひたすら鳩を心配し続けてしまいそうです。
この詩の感想でこんなことを言うのも野暮ですが、飼っている生き物は逃がしちゃだめです。
お読みいただき、ありがとうございました。
来週は吉野弘「祝婚歌」を読みます。
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