【しをよむ115】岸田衿子「南の絵本」——確かに訪れたあの場所。

一週間に一編、詩を読んで感想など書いてみようと思います。

岸田衿子「南の絵本」

(田中和雄編『ポケット詩集』(童話社)より)

スペインやギリシャの地中海の光景が浮かびます。
朝焼けか夕焼けか、金色がかった赤い陽が海に反射します。
白い壁にくっきりと影の線が描かれて、
つやつや厚いオリーブの葉はいっそう色を濃くします。

一幅の風景画の中の人たちがゆっくりゆっくり生活を営みます。
この詩を一本の絵巻で観たい。隅々まで精緻に描かれた風景を、旅人が歩く距離と時間のままに解いていきたい。
読みながら、じんわりとそんな感情が湧きました。

絵のタッチとしては安野光雅「旅の絵本」が私のイメージにぴったりです。
そこに住む人、ひとりひとりの暮らしとすれ違う。
周囲を見回せるくらいの速さで歩いていく。

時間を忘れてただただ絵本や絵巻を眺め、言葉のないイメージを広げていく、
子供の頃の贅沢な時間が思い出されました。

「旅の絵本」で思い出したのですが、メインのストーリーとは別に
イラストから他の物語が垣間見える絵本、好きです。
「バムとケロ」シリーズも大判の絵本を何度も飽きずに開いていました。
最近買ったものだとショーン・タン「アライバル」も。

目で、耳で、実在の世界や架空の世界、あるいはそれらが混じり合った世界を受け取って想像して憧れる。
心の中に空想や憧れを育てる速度は、詩に描かれる「種をまく人のあるく速度」と
似通っているようにも思えます。

お読みいただき、ありがとうございました。
来週は濱口國雄「便所掃除」を読みます。

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