【しをよむ092】立原道造「草に寝て……」——幸せは山のあなたに。夢が描く中に。

一週間に一編、詩を読んで感想など書いてみようと思います。

立原道造「草に寝て……」

石原千秋監修、新潮文庫編集部編
『新潮ことばの扉 教科書で出会った名詩一〇〇』より)

ひと針ひと針ていねいに編まれたレースのような、
繊細な、柔らかな、光に満ちた美しい世界。

この全きやすらぎは、暑い寒いとかお腹が鳴ったとか草の葉の先がちくちくとくすぐったいとか、そうした神経と血液を張り巡らされた肉体では到底感じられないのではないかと思うほどです。
もはや彼岸や夢のなかといった「魂だけの場所」にも等しい高原。

6月の晴れた風は心地好く、かといって寝入ってしまっても風邪を引く心配もない暖かさ。
何と比べるでもなく、たった今純粋な「しあはせ」を感じること。
詩と呼吸を合わせればすんなりと眠りに落ちていけそうです。

晴れた日曜日。小鳥のさえずり。山のむこうの慎ましく清廉な村。満ち足りた幸せ。
立原道造は「夢みたものは・・・」でも共通のモチーフを使っています。
「夢みたものは・・・」が合唱曲の小品にもなっていることから、
「草に寝て……」を読むうちにも、胸がいっぱいになるほどに優しい調べが思い出されました。

ちょうど今、療養所を舞台にした小説を書いているからか、
夭逝した作者自身にとっても、
抗うことなく涼やかに呼吸できる空気、降り注ぐ太陽と木陰と風、手足を思う存分に長々と伸ばせる草原は、
日常の象徴、そして幸せの象徴だったのかもしれないとも考えさせられてしまいました。

お読みいただき、ありがとうございました。
来週は山之口獏「天」を読みます。

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