厄介オタクによるP3Rエピソードアイギス感想【ネタバレ有】
前置き
かつてP3ファン界隈を焼け野原にした問題作が令和に蘇ると知った時、私が真っ先に期待したのは、エピアイのシナリオが大きく改変される事だった。しかしプロデューサーの和田氏によると、時代に合わせた細やかな調整は行うがシナリオの根幹は変えないとの事だった。
過去のnote記事を読んでもらったら分かる通り、私はフェス後日談をプレイしてその内容に大いに傷付いたオタクである。「アイギス寵愛のために他の全てが犠牲になって、その結果大炎上したのが原作エピアイだったけど、そんなゲームのシナリオを変えずにどうリメイクすんの?」と前情報に不信を抱いたものの、とりあえずプレイしてみないと分からないのでやってみた。
もはやシナリオの是非がどうとかではなく、リメイクのくせにゲームとして終わっていたなんて誰が想像できるんだよ。
良かった点
時の狭間のビジュアル
全書解禁でペルソナ育成が楽になった
アイギスのアタックが便利
頑張って良い所を探してみたが、これしか思いつかなかった。
原作と比較して戦闘や探索が楽になったのは確かだが、それはP3R本編のシステムを流用しているからなので別にエピアイの良さではない。リメイク版エピソードアイギス独自の要素として褒められる所は、ダンジョンのビジュアルと全書解禁、アイギスの敵シンボルへのアタックのみだった。
良い所はマジでこれだけ。
以下から長い長い批評。
駄目だった点
苦痛なダンジョン攻略
エピソードアイギスは、ストーリー終盤まで寮とダンジョンを行き来するだけという単調極まりない物語だ。戦闘面は雑魚や階層ボスが弱点見切りを持っているというクソゲーっぷり。その問題点がリメイクで全く改善されていなかった。
仲間に直接指示できるようになったりパッシブスキルやテウルギアで味方側の能力が底上げされてはいるが、そもそも敵がバカみたいに硬い。直接指示できずワンモアの仕様が今と異なる原作の戦闘は頭を使うゲーム性だったが、リメイクで総攻撃を簡単に発生させられるようになっただけに、レベリング作業の単調さがより目立ってしまうのである。
原作も同じような苦行ゲーではあったが、それはPS2時代のゲームだから許容できた(リアタイでプレイした人は本当に大変だったと思う)。でも2024年のフルリメイク作で17年前と同じ事をさせるのはいかんでしょ。
その上完全新曲である戦闘BGMは「私は戦いたくない、放っておいて」というアイギスの自己愛にまみれた内容の歌詞。プレイしているこっちはこんな歌詞を聴かされながらアイギスを操作して探索しなければならないのだ。はっきり言って原作よりうんざりした。そんなに戦いたくないならリーダーやめちまえよと何度思ったことか。
原作と同じ自動生成ダンジョンだったP3R本編は、リメイクの物珍しさと進化っぷりに目が行ったのでそこまで苦痛には感じなかった。何より本編は学生生活がメインで、タルタロスは行きたい時に行くダンジョンだった。
一方エピソードアイギスはプレイ時間の9割が虚無のダンジョン探索なので、苦行どころではない。やる事といえば原作と同じく最下層まで潜って見切り持ちボスを倒し、仲間の薄い過去を見るのを繰り返すだけ。一体何が楽しいんだ、これ?
私は最高難易度のハートレスでクリアを目指すつもりだったが、2時間かけてマレボルゼを踏破したところで我慢の限界がきてピースフルに変更してしまった。意固地にならず難易度を落として良かったと思う。頑張っても何も得られないストーリーなので。
クリア時間は12時間半、アイギスのレベルは89。ここまで頑張ってもストーリーは原作と変更なし。原作再現という点では100点に近いが、そもそもその原作が非常に物議を醸した問題作なので、0点のクソゲーが令和仕様になって蘇っただけという感想だ。P3R本編の感動を台無しにしたので0点を通り越してマイナスかもしれない。
しかも相変わらずクリアしても強くてニューゲームができない仕様である。ここは流石にリメイクで改善されるだろうと思っていたのでびっくりした。ジョーカー戦やモナドガチャなどやり込み要素があるのに引き継ぎさせてくれないって、もはやこのゲームやる意味ある?
味変にもならなかった追加要素
今作ではP3R本編と同じく寮内イベントが追加されている。ダンジョンで見つけたDVDや本を使って仲間達と過ごし、失われたパッシブスキルを再び身に着けるというミニイベントだが、その内容がまあ薄い。本編では仲間の成長に繋がる内容だったのに、エピソードアイギスの方はノルマ的に追加してみましたといった感じ。
というか、そもそもパッシブスキルを忘れないでほしかった。主人公と過ごした時間まで忘れられた気分になってとても悲しかったです。主人公の事を思い出してしんみりするとかも無かったし。
味変にならないとは言ったが、むしろこの追加イベントが別の問題を生み出してしまっている。
登場時に天田を殺そうとしたメティスが、寮イベントで天田と仲良くコーヒーブレイクを楽しむのは倫理的におかしいだろ。
天田の吐血はリメイクで消されたものの、メティスに叩きつけられ胸倉を掴まれるくだりは原作そのまま。この件があるから私はメティスを許せないでいる。何より、その場にいた中で一番幼くて弱い存在を真っ先に狙いに行ったのが卑劣極まりない。
仲間入りするキャラクターとしては許し難い言動なので、リメイクで謝罪シーンが追加されるだろうと予想していたのにそれすら無いのは驚愕した。コーヒーブレイクで和解を描いたつもりならズレまくっている。細やかに調整したとは何だったのか。
トドメに制服を着たメティスとのデートイベント。スタッフがロボに萌えているというより、「お前らこういうのが好きなんだろ?」と言われてるようでキツすぎる。
何が酷いって、このメティスがアイギスの分身な事。メティス関連は全てアイギスの自慰で自己憐憫なのである。天田を傷つけ、S.E.E.S.を殺そうとし、死んだ主人公の気持ちを代弁し、「姉さんが一番大事です」「姉さんの後ろ姿格好いい…」とウットリしていたのがアイギスの本心だと思うとドン引きするし、アイギスとメティスを一瞬で嫌いになれる。
この発言全てがアイギスの本心ってワケ。吐き気がするシナリオだ。
リメイクにおける台詞の修正
原作の仲間達の言動や演出はそれは酷いものだったが、リメイクで修正されたものとそのままの箇所が混在した結果、制作陣が何がしたいのか分からなくなっている。
総攻撃フィニッシュの仲間達の台詞が本編と変わっていないのも謎だ。フェス後日談では変わってたのに。リメイクで劣化するってどういう事だよ。
一方で、天田の「モヤモヤした気持ちがすっきりした」という台詞がまるごと修正されたり、ラストの順平の「メデタシ」が「オシマイ」に変わっていたり(発言の酷さは何も改善されてないと思うのだが…)、主人公のグロシーンが綺麗な消滅シーンになっていたり、メティスが「姉さんが死ぬかも」とS.E.E.S.を脅すシーンがアイギスと二人きりの場面に変わっていたりしている。
それはまあいいのだが、台詞を変えた事でこれまた新たな問題や倫理の破綻が発生しているシーンも見受けられた。
ゆかりの有名なシーン。敗北した後にアイギスに「鍵を寄越しなさいよ」と掴みかかってメティスに諭され泣き崩れる原作のシーンが、掴みかかるくだりがそっくり削除されてアイギスの勝利を素直に認め、その場で泣き崩れるという流れになっている。原作の方は強情を張るもメティスに冷静に諭された事で心が折れ、本心を露わにするのがゆかりらしくて個人的に印象に残ったのだが、リメイクでは心情の変化が唐突な印象を受ける。
ただ削除された言動は原作スタッフの悪意を感じて辛くもあったので、削除自体は妥当だと思う。それでももう少し工夫してほしかったというのがゆかりファンの気持ちだ。「彼に会いたい…会いたい会いたいの!理屈なんて無いの!!」という原作の畳み掛けるような言い方も胸に響いたのに、リメイクで謎に変更されてるし。なんでそこをマイルドにするかな。
ぶっちゃけ、ここは原作の方がゆかりの主人公への深い執着と想いを感じて好きだった。P3Rでゆかりと主人公の絆が深掘りされていたのに、まさかエピアイで弱まるとは思わなかった。ゆかりが第2テウルギアを思い出す追加シーンはわりと良かったんだけどな。
まあ、ゆかりの言動修正なんて可愛いものだ。なんでそんなテコ入れをするん?と言いたくなる修正点もあったから。
真田がゆかりを煽るシーン。ゆかりの父親の死を持ち出すのは原作と同じだが(それ自体にもドン引きだけど)、リメイクで「その後に続く闘いも…」の台詞が追加されている。
リメイクのライターは真田の主張をより強固にするためにこの台詞を追加したと思われるが、4週間前に死んだ主人公の話題で10年前に死んだゆかりの父を持ち出している時点で論理が破綻している。両者の話は全然違うだろ。
その上、真田が大切な人の命や人生よりも自分の経験した闘いや出会いを優先する人間になってしまっているんだけど、そこはいいのか。いや確かに真田は本編の時からそういう無神経で自己中な所があったけどさあ…。これでゆかりを論破できていると制作陣が思ってる事に引く。
このヤベー台詞もそのまま。誰が好き好んで17歳で死を選ぶと思ってるんだ。死者に口無しで好き勝手納得する仲間達こそリメイクで修正するべきだろうに。
このシーンも台詞が丸々変更されている。原作ではゆかりが「他の方法があったら、彼だってそうしていたよね…」と零す場面なので、主人公の死を彼の選択だった事にしたいリメイク制作陣からするとなんとしてでも漂白しないといけなかったのだろう。結果余計に酷くなっているのだが。だから、封印しない道を主人公が選んでいたら人類が滅亡していたんだってば。
主人公は死を選んだわけではなく、そうしないと仲間達を守れないから犠牲になっただけ。要するに自分の命と地球破壊爆弾が並ぶトロッコ問題で自分の命にトロッコを誘導しただけに過ぎないのだ。自分が死ぬか自分と全ての人間が死ぬかを選ばされただけで、選択の余地は無かったんだよ。ゲームとしてはニュクス・アバターに挑んだ時点で主人公の運命が決定していて、死から逃げるにはゲーム機の電源を落とすしかなかったのだし。
主人公が自分達の命の恩人だという事を、S.E.E.S.の人達は本当に理解しているのだろうか?
理不尽な死のまま終わった主人公の扱いと、なされなかったアイギスの贖罪
そもそも主人公は、桐条とアイギスが元凶の事故に巻き込まれた被害者だ。桐条がデスを生んでアイギスが主人公にデスを封印しなければ、主人公は死なずに済んだんだから。美鶴とアイギスにその罪の意識が皆無なのが違和感しかないし、制作陣との感情の乖離を感じてP3ファンとして辛い。
10年前に主人公の親を巻き込んで殺した事を美鶴とアイギスは謝罪の一つでもするべきだったのに、それすら無いってどういう事だよ。(殺したのはアイギスではなくデスという事にしている?いやいや、そのデスを実験で生んだのが桐条なんだって)(シンの家族を殺したのはフリーダムではなくカラミティという事にした種デスかよ。デスだけに)
天田母を殺した罪を贖った荒垣や、欲望に任せて人を殺してきた報いを受けたストレガや幾月の死は納得のいく死だった。でも主人公はそうじゃないだろうに。
10年前に桐条に親を殺され、アイギスにデスを封印され、S.E.E.S.に協力させられて世界を守るために命を使い果たしたのが主人公だ。だから無印発売当時に「なんで落ち度の無い彼が死なないといけないのか」と主人公生存派が思ったし、フェス後日談に多くのファンが激怒したのだ。
アイギスは自分が主人公を死なせたという罪の意識すらなく、エピアイでは分身まで生み出して自分を守り、仲間達を傷つけ、自己憐憫に浸り、主人公を見捨てて兵器の身でありながら幸せな学生生活に戻る事を選んだ。貴方を守るとは何だったのか。荒垣の死から何を学んだんだよ。この人格破綻ぶりがリメイクでテコ入れされなくて笑うしかない。
P3だけではなく、P4GもP5(R)も被害者と加害者に焦点を当てる割に被害者の感情を蔑ろにしていたが、まさか一周回ってP3Rに戻ってくるとは思わなかった。
アイギスに感情移入できないのも、仲間達が制作者に動かされる駒なのも、主人公が蔑ろにされているのも原作通り。細やかに調整すると啖呵を切っておいてこのザマって、アンチのこっちが困惑する。もう少し小賢しく漂白してくると思っていたので。
和田PはP3R本編の時からP4Uとの繋がりを意識した発言をしていたので、P4Uに繋げるためにエピアイをリメイクしたものと予想していたが、そのあたりのテコ入れも無し。アテナ復活とか上記スクショの台詞削除とかやらなくていいんかい。P4Uと色々矛盾が生じてるんだけど?
最後まで制作陣の意図が読めないリメイクだった。Heartful Cryやメティスでもうひと稼ぎしたかったのだろうか。メティスを推したい気持ちは痛いくらい感じたよ、異常者の部分を据え置きにして痛々しい媚びキャラ全開で出してくるとは思わなかったけど。
主人公ファンとしては何も良い事が無かったな。ハルマゲドンもオルフェウス改も取られちゃったしな。あとジョーカー参戦はどう考えても不要だっただろ。
こんなのが3850円でP3R完結ですか。ワクワクしながらプレイして裏切られた新規勢には同情する。
問題作を掘り返してのリメイク、細やかな調整、その言葉を信じて「仲間達が主人公を悼む追加シーンがあったらいいな」と期待してプレイしたが、ものの見事にスカされた。誰も主人公を想わず、悼まず、救おうとしない残酷なシナリオのままだった。こんな内容で「みんなが前に進むための物語」だなんて和田Pはよく言えたな。改めて引く。
酷すぎてこれ以上言葉が出てこない。本当に残念でならないです。