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THE BEST MOMENT




フジファブリックの20周年記念ライブに行ってきた。うだるような日曜の有明ガーデンは人で満たされている。開場前に志村一家やオリジナルメンバーたちを見かけた。

定刻通りに照明がふっと暗くなり、これまでにリリースされた音源のジャケットとバンドの映像が絡み合いながらスクリーンを流れていく。一曲目は「STAR」。まばゆい光線のようなギターリフが響き渡る。次いでカウントとともに「夜明けのBEAT」、「徒然モノクローム」。山内の背面弾き。蓋をしてしまいこまれていた当時の感情がそのままよみがえってくる。またそれに翻弄されるのはつらい。だがしまい込んだところで何年経とうとそれはなくなりはしないのだ。

メンバーは今日も楽しそうに演奏している。やはりなかでも金澤の様子をついうかがってしまう。いつものように全体に冷静に気を配りつつ、その一方でいつもより没頭しているようにも見えた。時折控えめな笑みが顔をよぎっていく。細かな言いまわしは指の隙間から零れ落ちるように抜けてしまったが、自分のことばで(おそらく事前にまとめたものを見つつ)しっかりと20周年を迎えられたことへの感謝と、20周年を以て区切りをつけるということ、それを受け入れてくれたメンバーへの感謝、そして今日に全力を尽くすということを語る。「楽園」。

「KARAKURI」の後、山内が「志村君と演奏したいと思います」と言う。間髪入れずにはじまったのが一体何なのか、一拍遅れて理解する。「モノノケハカランダ」。今までのいくつものこの曲のライブ映像が矢継ぎ早に映し出される。ボサッとした志村が必死に歌う。志村もだが、こうやって山内がシンガーではなく、ただ純粋なギタリストとしてフジファブリックのステージにある瞬間を渇望していたことに改めて気づく。「陽炎」、「バウムクーヘン」。この瞬間があと少しでも長く続けばいいとおもっていた。どの志村の姿も懐かしい。だがやはり2008~2009年あたりは観ていてなんだか苦しい。「若者のすべて」。

「Water Lily Flower」の後、山内がアコギに持ち替える。言われなくても次が何かはわかる。オーディエンスに座るように促し、「年を取るごとに自分のなかにさびしさや悲しみがあることに気づいて、でもそれは悪いことではなくて、それを肯定するような曲を書きました」というようなことを言う。「月見草」。本当にこのうたが好きだ。いつも明るく人懐っこい山内が、心の深いところに沈められたさびしさや悲しみにふと突き当たった瞬間に生まれるうたがある。「sing」や「卒業」もそうだろう。そういううたに心をつかまれたままになっている。生きてゆくことはどうしようもなくさびしく、悲しい。だがさびしさや悲しみというのは、不在の描く星座のようなものかもしれない。それを大切に抱えてこれからだってゆく。はは、2月に「これからもっと上達します」と言っていたくちトランペットは大してうまくなっていないな。もっとも上達すべきともおもってはいなかった。

「月見草」の後だったか、山内が思いの丈をことばにしつつわずかに涙ぐんだように見えた。すかさず加藤が割って入り、カトークを宣言する。いつもより堂々と、いつもより長く、いつもより淀みなく話す。Wondering with youの賜物だろうか。夏休み、長じて後は夏フェスシーズンでそこまで祝ってもらえない自分の誕生日のことで笑いをとるが、山内だけは「毎年おれらちゃんとお祝いしてるやん!」としつこく抗議していた。そこは譲れないらしい。言葉の綾だとおもう。なぞかけは「20周年とかけましてペットととく。そのこころは、どちらも『めでたい』でしょう」。今回もととのうのが異様にはやい。過去にはアンコールまで引っ張ったがとうとうできなかったこともあったと苦笑いを浮かべていたが、平均したらやはりかなり早いのではないか。

「15周年大阪を経て、また東京に戻ってこられてうれしくおもっています。これからどんどん盛り上がっていきます!」というようなことを言い、「東京」。そこから「LIFE」、「ミラクルレボリューションNo.9」、「Feverman」、「星降る夜になったら」と畳みかけていく。

山内が自信たっぷりに「前から言ってますけど、フジファブリックの音楽を受け取ってくれるあなたたちも含めてみんながフジファブリックだとおもっていて、今はステージに上がっているぼくらもショウ・タイムなんですけど、みんなもショウ・タイムなんです。今この瞬間もショウ・タイム、帰るのもショウ・タイム、明日もショウ・タイム。みんなこいつ何言ってるんだとおもってるとおもいますが、ぼくもいま、そうおもっています」と混迷を極めていた。途中まではよかったとおもう。というわけで「ショウ・タイム」で本編が終わる。

アンコールでも金澤がきちんとMCをする。「ライブの構成など志村家にアイディアをいただいたり協力していただいた」、「ファーストアルバムのプロデューサーである片寄さんにも協力いただいた」「いつもより志村を感じられるライブになった」というようなことを言っていた。一曲目は富士吉田公演の志村のMCから「茜色の夕日」。今度はスクリーンには何も映らない。ただ志村と三人、そしてサポートの二人の音だけがそこにある。そしてそれで充分だった。

山内がまたMCをして(「まだこれで終わりではない2月もあるし11月もある」というようなことを言うので客席がざわついたが、もしかしてまだ当分アナウンスされないやつじゃなかっただろうか)、「破顔」。キーボードの脇に控えていたギターはてっきり「SUPER!!」で使うとばかり思っていたが、実際はこちらだった。そして「SUPER!!」。4月のライブでもこれが聴きたくてたまらなかった。

最後に山内がとぼけた顔で「みんなで写真、撮ろ?」と言って客席をバックに集まるが、ちょうどいい掛け声がおもいつかずフリーズしていた。撮り終わり、笑顔ではけていく。

帰りながら、振り返る。志村の曲、新しい曲、古い曲、明るい曲、怪しい曲、さまざまな曲をバンドの歴史を紐解くように演奏していったが、今日のライブの核心となるのはやはり「月見草」だという気がした。楽しいライブだった。でも芯はどうしようもなくさびしく悲しい。


〈SET LIST〉

1. STAR
2. 夜明けのBEAT
3. 徒然モノクローム
4. 電光石火
5. プラネタリア
6. Green Bird

7. 楽園
8. KARAKURI

9. モノノケハカランダ(志村)
10. 陽炎(志村)
11. バウムクーヘン(志村)
12. 若者のすべて(志村)

13.Wate Lily Flower

14. 月見草

15. 東京
16. LIFE
17. ミラクルレボリューションNo.9
18. Feverman
19. 星降る夜になったら
20. ショウ・タイム

EN1. 茜色の夕日(志村)
EN2. 破顔
EN3. SUPER!!


フジファブリック(志村の曲とかれへの鎮魂歌)については、こちらでも書いています。
よければどうぞ。

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