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いつも静かに文字は人を待っている
ワセミス主催の米澤穂信さんの講演をYouTubeの生配信で観た。彼がこよなく愛するミステリを取り上げてワセミスの会員たちと語らうというもので、古典的名作も多いし彼のファンならあちこちで言及されるのをみてきた作品ばかりだ。それだけに(緊張していたのだとはおもうが)生き生きと語っていて、とてもよい時間だった。人が好きなものについて語っている時のあの不思議な輝きと熱が、いつまで経っても好きだ。
それにしても、米澤さんは言うまでもなく優れた書き手の一人だが、その前に優れた読み手でもある。たぐいまれな小説が生み出されることは素晴らしいことだ。だがそれが優れた読み手に出会い、そこから豊かなものが汲み上げられる瞬間に一番泣きたくなるような興奮に駆られる。その行為を批評という。誰だってみんな批評をするべきだとおもう。巧拙は関係ない、詩もそうだ、皆がそれをすることで人間は豊かに耕される。漫画版『風の谷のナウシカ』で、詩と音楽以外に後世に残す価値のあるものを、人間は生み出せなかったのだというつぶやきがいつも胸の底に響いている。
深い眼差しを持った読み手を、いつでも書かれたことばは静かに待っているのだ。『シュトヘル』の最後の一節を反芻している。